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THREEを想う

最近、ふと思い出す。
「THREE」という漫画。惣領冬実さんの作品だ。
最近の話題だと「ミステリと言う勿れ」の作者さんなのです。
ドラマの「ミステリ〜」も良かったですね。
整くんが忠実に演じられていて、実写ならではのテンポの良い整くんのセリフも良かった。菅田将暉さんはセリフが多くて長くて大変でした、とインタビューでは仰っていたようですけれど。作品のファンである私は、なかなか好印象でしたよ。
……って、なんだか偉そうですね。ごめんなさい。いち一般人の意見と思って聞き流してくださいね。

で。何が言いたいのかというと。
「THREE」ですよ。
私、先日、小さな小さなステージで歌を披露する機会があったのですね。
これでもカラオケ上手だね、なんて言われてちょっと良い気になっていたかもしれません。馴染みの場所ってこともあって、心地良い緊張感の中で挑むことになりました。
他の方々はギターの弾き語りなんです。趣味でギターを弾いてる方々が歌うステージに混ぜてもらったんです。私は、お店に入っているカラオケで歌を披露することになっていました。
皆さんが歌い終わって、とうとう私の番になった時、知らない人がお店に入ってきました。
で、私が歌い出したらアドレナリンが出たようで、喜んで興奮してステージに上がってきたんです。しかも、私よりも大きな声で歌を歌い始めました。応援歌のような怒声。しかもオタク芸のような全身を使うフリ付きで。
私、びっくりしてしまいました。

私の出番、まるっと横取りされた気持ちになりました。なんで??なんでこの人ステージに来ちゃってるの?!私が歌ってるのに、なんだなんだ??何が起きたのか良く分からなかったのですが、その人が好きな歌だったようです。それで喜んで、乱入してきた。

それだけで私は頭が真っ白になって、歌い切ることだけでやっとでした。歌い終わって、MCしようと思ってたんですけど、なんだかパニックでそれどころじゃなかった。その人は曲が終わったらステージを降りたので、そこは良かったんですが、私の気持ちが持ち直せなかったのですね。
ショックが大きすぎて、一呼吸ついて次の曲を披露することだけで精一杯でした。
お礼だけはステージで叫んで、それで私の演目は終わってしまいました。
……………あんなに、練習したのに。。

私は呆然として、悲しくて、泣いてしまいました。誰もいないところで、ひっそりと。
アレを上手くやり過ごせなかったのは私の器量の無さだろう。ショックを受けてしまって持ち直せないのは私の経験不足だろう。そして、ステージに上がってくることを許してしまったのは、私の演者としての貫禄のなさだろう。。

そう思って、悲しくてしょうがありませんでした。一人で泣いて、誰にも心の内を漏らすことなくやり過ごして居たのですが。
後日、主催者に用事があって、例の会場に行きました。こじんまりしたBarの、小さなステージ。マスターはいつもどおりで、私も普通に接しました。カラオケ歌えよ、って言われて歌って。
しばらくしたら、一緒に出演した演者さんがやって来ました。
先日はどうも、いえいえこちらこそ、みたいなやり取りをして一息ついて。その人は、いつものようにカラオケを始めました。代わり映えのないいつもの歌。お世辞にも上手いとは言えないんだけど、抑揚の足りない安定な歌声。
それを聞いていたら涙が急に出て来ました。
ぶわーっと。
マスターが気づいて私を見ました。
「お前なに泣いてんの?歌?歌に感動してるの?」
私はふるふる…と首をふる。
「あのオッサンを思い出してるのっ」
言葉を発したら、カウンターにぼたぼたと涙が溢れた。
私のステージに乱入してきたあのオッサン。
私の気持ちがヒュウっと縮こまったあの瞬間。
悲しくて悲しくて。
でもそれ以上に本当は「悔しい」。
私が私を表現出来なかった。だから、悔しい。
あいつに邪魔されたと思っている。だから、悔しい。
悔しいんだ……

自分の感情をつぶさに味わって、私は納得する。
私のステージを壊されたと思ってるからムカついている。悲しんでいる。でもステージって一回きりだ。ナマモノ。そして、私が演者と思ってもらえなかったことにも悔しさを抱いている。
うーん、そういうことか。

納得。
因みに、マスターの前で泣けなかったのは、マスターにそんな程度のことで泣くんだ?って思われたくなかったから。マスターが大好きだから、失望されたくないんだね。いや、今まで散々どうでもいい面を見せてるから、今更取り繕ったところでどうにもならないんだけど。むしろそっちの方が笑われちゃうかな。今更だろ、って。

マスターの前で泣いてしまったことで、私は落ち着きました。見せたくなかった人に見せてしまったことで憑き物が落ちたようです。
ああ、私、リベンジしたいなぁ。

「あ、ねぇ、焼き鳥食べませんか?」
カラオケを終えた演者さんが、私に声をかけてくれました。「あ、今あいつは」マスターが私が泣いてると思って口を挟みました。
「私、これから用事があって出なくちゃいけないんですよ〜」私はにこやかに、でも残念な感じを醸し出して笑いました。大丈夫です。私はもう大丈夫。用事があって行かなくちゃいけないのも本当のことです。
マスターは安心して笑いました。
「あいつ、これからバイトなんですよ」
私はまだまだ発展途上です。
些細な事で躓くほど、まだ経験値不足ですが。
マスターがいてくれると、私以上の力が出そうです。
マスターに、見せたいんですね。
私のステージ。
私のパワーが1じゃなくて、2にも3にもなったところを。
いつか、見せるね。

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