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第2章 コンサルタントが事業者になるメリット・デメリット ~補助金漬けの中小企業支援~

中小企業診断士の代表的な仕事と言われている補助金支援。中小企業支援の現場にいると、これが結構な矛盾を生み出していることに気づきます。そこから自分のビジネスを始めようと思った経緯を書きました。

1.商工会議所で待っていた仕事

中小企業診断士になった私が勤めたのは滋賀県・彦根市にある彦根商工会議所です。商工会議所と商工会、似た組織がたくさんあって区別がつきにくいのですが、こんな感じです。

それなりに大きな街にある:商工会議所
それ以外の地域をカバーする:商工会

どちらも法律に基づいて設置されている中小企業の支援機関です。公務員ではないのですが、国や地方自治体からのお金が入っているので、完全な民間組織でもありません。

トップ画像のようなセミナーもたまにやっていました。ただ、実際に窓口にいるとどのような相談が多いのでしょうか?感覚的にはほぼ9割くらいが補助金関係です

助成金:条件を満たすと予算がある限り必ず支給されます。厚生労働省管轄のことが多く、社会保険労務士さんが扱うことが多いです。

補助金:国から出るお金の一種。補助金は限られた予算を競争で取り合うため、応募したとしても採択されなければ支給されません。経済産業省や総務省、様々な予算から支出されます。

中小企業診断士の監督官庁は経済産業省です。経済産業省は政策実現のために補助金を使うことが大変多く、必然的に補助金のための申請をする仕事が多くなります。

そもそも論として、補助金申請って何を書くのでしょうか?
一言で言うと、こんな世の中の役に立つ新しいことをしたいので、そのために必要なお金の一部を補助してください、という文章です。事業計画と呼ばれます。つまり、補助金申請とはビジネスプランコンテストなのです
事業計画とは、新しい取り組みを含めて、以下のような経営の全体像をとりまとめたものです。

事業計画の全体像:ポイントを抑えて15ページ以内にまとめることが多いです

例えば、製造業向けの補助金ですが、以下のような開発のフェーズごとに様々な制度が用意されています。

製造業でよくある補助金の仕組み

ここからが問題なのです。
普段お客様と向き合って仕事をしている社長さんが、例えば以下のような内容をまとめて、文章にすることができるのでしょうか?
絶対できないとは言いませんが、忙しい本業の傍ら作るのは相当大変です。
結構な割合でA4・1ページくらい文章を書けばOKなのでは?と誤解されているケースもあります。国の補助金だと、実際は10ページ以上の申請が必要なことが多いものです。

製造業で典型的な、ものづくり補助金に求められる要件

加えて、ビジネスプランコンテストである以上、審査員がいます。この審査員は通常、中小企業診断士のような有資格者と行政担当者、場合によっては技術士や大学教授といった専門家が勤めます。

そもそも論として、そんなに計画の目利きができるのであれば審査員が自分でビジネスを始めれば大いに儲かるのでは?という素朴な疑問がわきます。
次に、GoogleやFacebook、Instagram、YouTubeのような、世の中を変える画期的なサービスが創業2~3年目に補助金に応募したとしたら、間違いなく審査に落ちます。何が言いたいのかというと、画期的すぎるビジネスは平凡な仕組みではすくい取れないのです。これは仕方のない側面もあり、税金を使う以上、誰にでもわかる平凡な仕組み・評価(審査内容)に落ち着かざるを得ないのです。

現代美術を公的な美術館で扱うのが難しいのと同じです。「この木の棒はアートです。10億円しました。税金で払いました。」という説明を議会で行うと、間違いなく「そんなものがアートなわけないだろ!誰が評価したんだ!第三者委員会か?」と、紛糾するのです。新しいビジネスは失敗する可能性が高く、税金も無駄になる可能性が高いもの。そのたびに担当者が議会に呼ばれていては仕事になりません。

そこで、東京のような大都市ではリスクマネーを指数関数的に成長する見込みのあるスタートアップに投入するベンチャーキャピタルが存在します。一方、滋賀県のような地方都市ではこういった話しはほぼありません。スタートアップではなく、あるのは小さな飲食店などのスモールビジネスです。スモールビジネスは投入する労働力のような資源によって売上高があらかじめ定まっているため、成長も緩やかです。私が専門としている伝統工芸の領域は完全にスモールビジネスに該当します。

2.補助金の代筆をする中小企業支援機関

商工会議所を初めとする支援機関の窓口対応のほとんどを占める補助金対応は、スモールビジネスに対応したものがほとんどです。具体的には、補助金額50万円程度の小規模事業者持続化補助金のようなものです。
つまり、以下の式が成り立つ場合に、補助金の申請をしようということになります。補助金作成は支払手数料のような専門家経費にあたりますので、一般管理費です。営業赤字にならないためには、これを補えるだけの売上総利益(粗利)があればよいということになります。

小規模事業者持続化補助金作成コスト < 粗利益で50万円を稼ぐ労力

申請書作成が得意な人が書けば、社長ご本人より安く書類が作れることもあって、多くの場合、専門家とよばれる人間が申請書作成を行うことが多いです。ただ、50万円程度の補助金の場合、あまりに報酬が安くなってしまうのでそれも難しい。

持続化補助金の支援が制度の仕組みとして求められている公的な支援機関の中には、会員獲得のためにほぼ代筆をしてしまうようなところも出てきます。ちなみに、私がいた彦根商工会議所は代筆は一切しない正統派な支援機関でした。正統派を貫くが故に、補助金のときだけ現れる一見さんから「あそこの町の商工会議所(あるいは商工会)では代筆してくれるのに、なんでここでは書いてくれないんだ!」というクレームが寄せられるのです(これをいうのは決まって一見さんです)。
いや、あなたの会社のお金になるのに、それを無料で書いてくれという方がおかしいでしょう。そもそも自分で考えるから意味がある文章ですし。普段、取引先にも同じようなことを言っていませんか?・・・と面と向かって言うことはさすがにできないので、丁重にお断りするのが日常です。

中小企業診断士の活動をするにあたって、認定支援機関と呼ばれる、国のお墨付きをもらうこともできます。ただ、私は認定をあえて申請していません。実際のところ、民間を含め、認定支援機関が積極的に補助金の代筆をしていることもあり、あまり関わりたくないという想いからです。

結局のところ、補助金採択の数=中小企業支援という誤解が広がっているのも、中小企業施策のゆがみが生み出していると思っています。本来、補助金は何らかの政策目的を実現するためのものですが、億円以上のものならいざしらず、50万円程度のお金を業種問わず小規模事業者へばらまくというのは選挙対策以外の何物でもないわけです。むしろ、補助金を受け取る場合、余計に利益を出すと、その分を国に返還する必要が出てきます。というわけで、利益を出さない経営に自然となってきます。そうなるくらいなら積極的に利益を出して、発生する税金を減税する政策の方がよほど優れていると思うのです。

3.成功事例の横展開という幻想

ただ、積極的に営業はしていないものの、私自身も高額な補助金の作成を行うことはあります。ホームページにも採択実績として載せています。そういう意味で言えば、決してかっこいいことばかり言っているわけではありません。

ただ、補助金の作成支援で偉そうなことをいうなら、まずは自分でビジネスをやってみては?、というシンプルな問いに答えること。自分の理論を実践したくなったこと。補助金漬けになっている地方都市で反発してみたくなったこと。補助金支援=中小企業支援という図式がおかしいと思うこと。こういった理由から、自分でも事業を始めたいと思うようになりました。

結局のところ、コンサルタントが自分で事業をやる一番のメリットは、補助金や行政の成果事例集に出てくるような成功事例の横展開に意味はない、ということに気づけることだと思います。
そもそも、経営の方向性を定めて、それに合うように企業内の独自資源を組み合わせるから、競合と比較して強みになるわけです。誰でも論理的に考えられる企画、つまりは横展開できる安易な企画など、すぐにマネされます。横展開できない=参入障壁が高いからこそ、本当の成功事例になるのです。これは民間企業はもちろん、地方自治体の地方創生事業にも当てはまります。どこかの成果事例集に似た企画や、そういった企画を勧めるコンサルタントに予算をつけても意味はないのです。

コンサルタントが自分で事業をやるデメリットがあるとすれば、素直な心で中小企業支援政策に取り組むことができなくなることでしょう。多くの中小企業支援施策に対して、「自分で事業をやったこともない行政が考えている支援策なんて、大して効果がないんじゃない?行政や政治に頼る時点で独立自尊じゃないよね。」という疑問を持ってしまうようになります。

【夫婦が得た教訓】

人からお金を調達すると、当然説明責任が発生します。規模が大きくないのであれば、補助金に頼らず、独立自尊の精神でいくのが良いのではないでしょうか。

次回に続きます!

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滋賀県のびわ湖のほとりでコンサルティングと伝統工芸のお仕事をしています。今後もnoteを通して皆様と交流できれば幸いです。

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