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案外 書かれない金継ぎの話 (7) ヒビの修理1~ヒビの確認~

ヒビ止めは漆だけを使って出来る修理で、粉体と混合する必要が無いため漆の性質が理解しやすく、金継ぎの導入としてお勧めです。今回からヒビ止めの実践的な話に入りますが、まずは陶磁器の基礎知識とヒビを確認する方法について書きたいと思います。

貫入とシバリング

陶磁器のヒビは、局所的な衝撃や急な温度変化で発生します。急な温度変化でヒビが出るのはガラスの器に多いのですが、陶磁(特に磁器)はガラスに近似しているためガラス程ではありませんが温度変化の影響を受けます。

ヒビと間違えやすいものに貫入(かんにゅう)があります。
普段使いの陶磁器の多くには、釉(ゆう)という粘度の高いガラスがコーティングされています。釉薬(ゆうやく)、上釉(うわぐすり)と書く事もあります。
高温の窯の中で釉はけて液体になり、素地は個体のままですが、窯の火が止まると冷えてどちらも個体になります。液体から個体に変わる釉は、素地の粘土よりも体積変化が大きく、釉の縮みが大きくなるほど貫入と呼ばれるヒビが発生します。

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陶磁器に発生する貫入

貫入は、長期的に増え続け(チンッと音が聞こえる時もあります。これを器が鳴くと言います)徐々に醤油や茶渋などが染み込んで目立ってくるのでヒビが出たと思う方がいますが、釉層のみに発生するものでヒビ割れではありません

あまり多くありませんが、焼成した器を冷却する際に素地の縮みの負荷が大きくなり過ぎた事でシバリングという現象が起こることがあります。店舗に出る前に発見されることが殆どですが、シバリングは見た目では判断しにくいため販売されてしまう事もあります。
最初は問題なくみえても、机に置いただけ、お茶を入れただけで突然ヒビが発生したり釉が剥離します。酷い時には割れることもあります。西洋磁器などで稀に見る事がありますが、これはヒビ割れなので修理対象になります。

ヒビの確認

作業前には必ずヒビの形と末端を確認します。直線か曲線か樹状になっているのか。どこまで伸びているのかを確認することは水漏れ止めに不可欠です。特にポットや花瓶など液体と触れる時間の長い器は、ヒビ止めしたつもりで水やお湯を入れたらポタポタと漏れる事もありますので見落しが無いようしっかりと観察することが大切です。陶磁器のヒビはガラスよりもゆっくり伸びていく特徴があるため、ヒビを見つけた直後よりも修理するときには長くなっていたり増えたりする事もあります。
ヒビは、『音』『光』『触感』の3方法で確認します。

音で聴き分ける

器を指で軽く弾き、音の違いでヒビを確認します。
600度以上で焼いた陶磁器は、ヒビが無ければ反響音の混じった高めの音がしますが、ヒビの入った物はコッコッという鈍い音になります(注:完全に器が乾燥した状態で行います。吸水していると無傷でも反響音はしません)。
音による確認は経験が必要なため、最初は全く分からない事もあると思います。聴き分けられるようになると素地の中の漆の硬化状態も分かるようになるので、ぜひ習得したい技術です。

強い光を当てる

音の変化でヒビの有無は分かりますが、形までは分かりません。そこで懐中電灯を使います。
白磁のように光の反射が強い器、逆に黒楽茶碗のように光を吸収してしまう器はヒビが確認しにくくなります。懐中電灯を近づけて強い光を当てるとヒビの形状を目視できます。
金彩が施されていたり複雑な形状の器も細いヒビは見つけにくいので懐中電灯を近づけて形状を探っていきます。
樹状に枝分かれするヒビは、分岐点を見逃さないよう、よく確認しましょう。

(左)蛍光灯で見た場合  (右)懐中電灯で見た場合
青いテープの下に分岐した細いヒビも確認出来る

尖った道具で探る

ヒビは末端に行くほど細くなります。漆は毛細管現象で徐々にヒビへ浸透していきますが、あまり細いと漆の粘性が勝ってしまい浸透しません。実際に何処まで漆を浸透させる事が出来るかは、触感で確認します。
私は縫い針を使いますがカッターの刃でも構いません。優しくゆっくりと先端をヒビに直行するよう動かし、引っ掛かりを感じるかで判断します。力を入れると傷が付いたり、黒い跡(メタルマーク)が付いて器を汚してしまうので注意して下さい。少しずつ場所を変えて調べ、引っかかりの無くなった箇所がヒビ止めの出来る末端になります。
見えていても引っ掛かりを感じないヒビは修理不可です。ルーターやヤスリで釉層に傷を付ける方法を紹介している場合もありますが、陶磁器は見た目よりも繊細で複雑な構造ですから、私は、人為的にヒビを広げて器に負荷をかけるのはお勧めしません。

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

(c) 2021 HONTOU,T Kobayashi

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