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案外 書かれない金継ぎの話(13)ヒビの修理4~下地を作る~

ヒビに漆を浸透させたら、漆を乾かしてから下地処理を行います。今回は下地を作る理由と、下地を整える方法の話です。

下地処理の必要性 

下地処理は、金蒔きに備えるための作業です。ヒビに漆が浸透すれば実用上の問題は無いので、直ぐに金を蒔いても良いのではないかと思う方もいらっしゃるでしょうし、海外では直ぐに金を蒔く方法を紹介するものもありますが、下地は仕上がりを決める大切な作業なので、面倒でも行う事をお勧めします。
下地処理をする理由は2つあります。1つは、ヒビに不足無く漆が詰まっているかを確認するため。もう1つは、金を蒔く面を滑らかにするためです。

陥没の処理

ほとんどの液体は個体になる際、体積が小さくなります。漆も同様、乾いて個体になると収縮し目減りするため、ヒビに十分に浸透させたつもりでも陥没してしまう事があります。陥没に気付かず赤漆を塗って金を蒔いてしまうと綺麗に見えない仕上がりになります。(写真:陥没箇所の金の仕上がり)。

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ヒビの場合、陥没は非常に小さく普通に見ても判別しにくいため、細筆で素黒目漆をヒビに沿って薄く塗って見付けます。漆の表面張力のため塗って直ぐでは分からない事もあるので、毛細管現象で漆が陥没箇所に吸われるまで少し時間を置いてから確認します。

線を注意深く観察し、漆の光沢が二つに分かれているようなら、そこが陥没箇所です。陥没していなければOKですが、陥没があったら漆を少し希釈し、陥没したところに丁寧に筆で塗り重ねます。
1回で埋まらない時は、何度か同じことを繰り返し塗り重ねます。一度で終わらせようと厚めに塗ると漆が縮れたり、研ぎ出し作業を始めたら漆の乾きが不十分で汚してしまい、結局、最初からやり直しになる事もあるので、焦らず進める事が大切です。
錆漆で埋める方法もありますが、錆を使うと表面的に処理出来ただけで修理箇所に漆を満充填出来ない可能性もありますし、今回はヒビ止めから始めた方に向けて書いていることもありますので、ここでは漆を重ねて塗る事を覚えるため錆漆の説明は省きます。錆漆については欠け埋めの時に詳しく説明します。

研磨作業

陥没が埋まったら、下地塗りした漆を研いで表面を滑らかにします。特に何度か塗り重ねた個所は漆が厚くなっていたり、無釉の器は素地の凹凸がそのまま漆の凹凸になっている事もあります。そこに金を蒔いて光沢感が強まると凸凹が強調されて不自然さを感じるので、出来るだけ凹凸を無くして表面が滑らかになるよう研いで調整します。
金継ぎで金色をより金らしく見せるには下地の処理が全てです。どんなに金を綺麗に蒔けても、下地の処理が悪いと綺麗な金には見えません。

漆の厚みは1㎜以下だと思いますので、研ぎ出しは目の細かい研磨材を使用します。
ホームセンターで売っている1500~2000番の耐水ペーパーが良いと思います。もし可能であれば木炭や、自然乾燥させた木賊とくさを使う事をお勧めします。

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木賊

木賊(砥草とも書きます)は、表面に砥石と同じ成分である珪酸の粒が並んでいるため研磨力があります。珪酸粒は小さく、耐水ペーパーや木炭の炭化ケイ素粒よりも柔らかいため、陶磁器のゆう(ガラスコーティング)を傷つけにくいというメリットがあります。数本あると茶渋を落としたり水垢取りなど食器の洗浄にも役立ちます。
ただし、ガラス成分よりも顔料の割合が多い洋絵具を使った西洋磁器、赤絵と呼ばれる赤の上絵具を使った日本の磁器や、金彩など金属皮膜の上絵の具は、傷が付いたり削れてしまう事があるので、木賊に限りませんが研磨の際には気を付ける必要があります。

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木賊の表面の珪酸粒

木炭は、備長炭のような目が細かく硬いものではなく、出来るだけ柔らかいものを使用します。漆芸では駿河炭を使うのがメジャーなようです。以前にホームセンターで買ったマングローブ炭を使った事がありますが、案外、使えました(マングローブは熱帯の水辺に生息する樹木の総称なので、硬いものから柔らかいものまでいろいろあり、硬さは一定していません)。

漆を研ぐ時は、研磨材の凹凸が削り屑で埋まらないよう水研ぎで行います。
力を入れず優しく漆の表面を撫でるように研磨します。施釉陶磁器の場合、漆とガラスは相性が悪く、あまり強く接着しないため、力を入れすぎると下地の漆が全て取れてしまうので気を付けましょう。水が汚れたまま研磨を続けると削っている場所が分からなくなり陶磁器表面に傷を付けてしまう事があるので、汚れた水で研磨箇所が分かりにくくなる前にティッシュで取り除き、綺麗な水を付け直して研ぐようにします。

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

(c) 2021 HONTOU , T Kobayashi

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