さしみ小話
先日~
旦那が誕生日でしてね
「刺身が食べたい」ってんで大量に買ってきたんでやんすよ
漁港もあり、近くで朝市場も開かれている、海産に恵まれた土地ではあるものの、平日の朝早く鮮度を見極め仕入れ、手早くかっさばく技術も無ければ気力と愛情もそこまで、全く、追いつかないので最初から仕事帰りにスーパーで値引きされた刺身を いつもの三倍の量 購入すると決めていた。
誕生日ディナーのメンバーは夫婦と息子の3名。
いつもの三倍の量
刺身大好き男子2人だからな。
たまには満足してもらいたい
我が家は残念ながらメインシェフがぐうたらなうえケチなので、土地が海産に恵まれていても滅多に刺身は食卓にのぼらない。
今日はたらふく食べるがよい
*
義母が元気だった頃
義母は漁師の家に産まれたので食卓に魚が無い日などは皆無、当然魚を捌くことなど朝飯前だ。
朝市で仕入れた小さなアジやカレイ、ギマ舌平目イカにアナゴ…その日一番新鮮で安いものを買ってきては庭の片隅でかがみ、下ごしらえをしてくれた。実際、朝飯前にさばきあげていた。
義母は小さな魚でも器用に包丁を使い三枚におろした
義父は晩酌に刺身を食べたがるので「スーパー行って自分で買ってこればいいのに」とケンカ口調でブツブツ言いながらも、かがんで小さな義母の背中からは「家族のためにやるか~」と幸せそうな雰囲気が漂っていた。
スーパーで刺身を選んでいると、どうしてもよぎってしまう
「贅沢だよな。おばあちゃんはいつも家族のために早朝、市場に行って、安くて新鮮なものだけを選んで買って、手間をかけてちっさな、大量の小魚をさばいて。美味しかったもんな。みんな喜んでたもんな」
買った刺身を受け入れてくれるのかうちの家族は?
特に旦那。
あんな愛情たっぷりの刺身を食べて育って、スーパーの刺身で納得するのか?
おばあちゃんてよく「鮮度が全然違うもん」て言ってたし、正直私はスーパーの刺身の鮮度具合に全然満足してるからどうだっていいんだけど、そう聞かされて育った旦那は、実際違いを分かってるかは不明だが、脳裏に焼きついているはずで、反射的に「受け入れませんな」と脳内でバツを出しているんじゃあないのか?
買っちゃダメだ買っちゃダメだ買っちゃダメだ!
…………
義母が倒れてから随分経つ
……まあ
旦那は早いうちから自分でスーパーで刺身買って「美味い美味い」と食べてた、か…
…………ヤッパワカッテナインジャナイカ?
……………
「すんごい高いし」
「やっぱ買っちゃダメだ」
こういう過程を経て
私は刺身を食卓に出さなかったのである
がしかし
がしかしだ
ある日私は気づいたのだ
*
私も義母のように家族のためにさばいてみよう
気持ちに余裕のあったある休日
朝市場へ出かけた
美味しそうな小アジを買った
これは下ごしらえをして煮るとか揚げるとかするよりは刺身におろすほうが楽な気がしたので「刺身用」にさばいてみた
割と出来たし美味しかったが
気がついたのだ
かかった時間を見た時
絶対スーパーの刺身のが鮮度は素晴らしいことに
身は恐ろしく削ぎ落とされ
小アジは極小アジになった
安く上がった気はしない
スーパー刺身 万歳だ!!
全然高くない!
手間と技を考慮すれば妥当だ!
いやむしろ安い。
よくぞ毎日市民のために大量の魚をさばいてくれてるってもんだ
お礼をして感謝を伝えなければならない
義母の仕事が素晴らしかったことを自分がやってみて初めて気がついた。
小アジの刺身はちゃんと小アジサイズだったし、アナゴまで開いてたんだから。
技術を金で買おう
いまや仕事も多忙になり、時間に余裕も無いし体力気力も無いんだ。
そもそも私はスーパー刺身に十分満足してたんだし、旦那だって普通に「美味い」と食べてんだ。何を迷っていたんだか。きっと旦那もそれに早く気づいて欲しくて自分で買ってるとこ見せてたんだ。誰に遠慮してたんだか全く。
多分、義母のプライドを自分のものと勘違いしてたんだ。
いいんだいいんだ
今日は家族のためにいつもの三倍買っていこう
*
「え!?息子今日ご飯食べんの!?」
ど~すんの????この量~!!!
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