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オルトン

窯を焚くときオルトンという三角錐の小さな棒の倒れ具合を目安にしている。
あらかじめ目標の番号のオルトンコーンを窯の中に入れておき倒れ具合で釉薬の溶け方がわかる。
オルトンが倒れているか確かめるには窯にある小さな小窓をあけて中を覗く。案外原始的。

表はゼーゲルコーンの溶ける温度。
三角錐の倒れ方で窯の中のカロリーをみる。
オルトンとかゼーゲルとかさっきからややこしいけどだいたいは同じ。
企業の名前が商品名になっている。
単に値段がゼーゲル社はオルトン社のよりちょっとだけ高いので私はオルトン社のを使っている。
AppleかSONYかみたいなもの。

窯の中は1000℃位ではまだまだ余力のありそうな赤っぽい鈍い光だがそれでも充分に綺麗だなって思う。

1200℃を超えた頃の窯の中は白く輝いていていつ見ても本当に綺麗。
私達陶芸家には馴染みのある世界。
コーンで言ったら7番くらいから10番位の狭義な世界。
本当に狭義。
なんでこんな狭い範囲で陶芸家は頓着しているのだろう。
たったその範囲が面白くて終わらなくてやめられない。
私はコーン9に割とこだわっていて日本の釉薬が長石ベースで考えられていてコーン9が長石のポテンシャルを引き出しやすいと勝手に思ってる。
からなんやけどそれがなんやねんとも同時に思う。ただの偏った頑固さなのかもしれないからそんな事関係ないと思える位いつか自由になれたらな。いつも自分を疑ってはいる。

ちょっと背伸びをする1300℃になるともっともっと光が強く白くなる。
自分にとってはもっともっとみたいな半ばやけくそみたいな温度だった。やけくそはなんだか美しく静かだった。

その後の世界は自分はやった事がないので見た事は無い。きっともっともっと怖くて綺麗だとは思う。

鉄が溶けるのは1500℃
原子爆弾は3000℃とか4000℃
太陽は6000℃

なんとなく数字に絶望だけしている。

何回も何回も窯を焚いているのにそれでも窯の中を覗くとああ綺麗だなと思う。
絶望出来ない。
人が経験出来ないどうしても居る事が出来ない世界が窯の中には在る。
こんなところを通って地球上の鉱物って出来てきたのか。
圧倒的に無理な世界が耐火レンガ10cm先には実際に在るのに。
絶対に触れないのに。

温度計も併用しているが目安の目安くらいに信頼は薄い。
温度計では表せないカロリー(熱量)があって釉薬は温度で溶けてるのではなくカロリー(熱量)で溶けている。
熱量。

熱と熱量。
さっき窯を詰め終わったから私は熱量が高い状態なんだろーな。
窯焚きながら寝たらいいし。
そもそも身体はいつまで頑丈なんでしょうか。



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