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太陽みたいな笑顔の彼に。

大学生の頃のわたしが付き合っていた人は、太陽みたいな人だった。よく笑う、少し天然な、とにかく優しい人。
会う人みんなに良い人だね、と言われるくらい素直な人。
彼と付き合ったのは2年半。お別れしたのは、一足先に社会人になったわたしと、社会人になりたての彼との感覚のズレが原因だった。
最後は酷かった。「なんで彼は〇〇なんだろう」と思うことが増えた。だけどそれは、わたしの一方的な思い込みもほとんどだった。もちろん当時はそんなことに気がつく余裕もなかった。彼はわたしの仕事を理解しようと一生懸命だったし、話を「うんうん」とただ聞いてくれる存在がどれだけありがたいことか当時のわたしは気が付かなかったのだ。
9月のことだった。体調を崩したわたし。夜になると高熱が出て、仕事に行く前に熱が下がる。仕事が終わると寒気がして、それでも多忙ゆえに病院には行けず、という日々を2週間過ごしていた。週末、彼と会う約束をしていた。しかし、とてもじゃないけれど行けないわたし。LINEで断りを入れると彼も慣れない仕事のストレスがあったのだろう、電話がかかってきて珍しく口喧嘩になった。
その年の6月には一度距離を置いていたこともあってか、わたしはもう彼に対してある種の諦めのような気持ちを抱いていた。その翌日、彼に別れようと伝えた。
それからは仕事に邁進した。仕事をしていると彼と別れたことを考えずに済んだ。彼がその後どうなったか知ろうとしなかった。知りたいと思わないように、必死だった。FaceBookの友だち登録を削除した。彼のプロフィール写真は、2人でドライブデートした時にわたしが撮った写真だったから。
それからは合コンにも、街コンにも出かけて、何人かとデートをして気を紛らわせていた。でも、デートの最中、椅子の座り方ひとつ、電車内の座り方ひとつ、食べ方ひとつ、何を見ても彼と比べてしまう自分がいた。彼よりできないなんて。いつしか、わたしの中で彼が基準になっていた。
そこで気がついた。彼は、相当できる人だったことに。わたしにとって相当、イイ男だったことに。そこからわたしの生き方が変わった。いつかどこかで彼と会うことがあっても、彼に恥ずかしくない人でいよう。わたしも、彼のようにまっすぐに生きよう。
彼と別れて一年半が経った頃。渋谷駅南改札で彼に遭遇した。遠目で彼を見つけてしまった自分を悔やんだし、彼もわたしに気がついて、話しかけようとしてきた。わたしは慌てて彼の視線に気が付かないフリをした。今のわたしは、彼と話せるほど良い生き方をしていない。瞬時にそう思ってしまった。
その夜、LINEがきた。
『元気だった?久しぶりに飲み行かない?』
『元気だよ。日にちが合えば』
と、行きたい気持ちを堪えて、さも行きたくなさそうな返信をした。
『19日はどう?』
『大丈夫』
あっさり決まった1ヶ月後の約束。
けれど、その約束は叶わなかった。
当時、婚活アプリを始めていたわたし。彼と会う約束はもちろん覚えていたけれど、彼と会ってどうにかなるだろうと思えるほど若くもなく、何よりいろいろな経験を重ねてしまった。彼と付き合っていた頃のわたしは、とうにいなくなっていた。
彼と会う約束をしていた1週間前。今の夫と初デートをした。初めて、彼と比べずにデートができた。それはわたしの中で、彼をようやく良い思い出と思えた瞬間だった。その翌日、彼にLINEした。
『来週会えなくなりました、ごめんなさい』
すぐに彼から電話がかかってきた。
「彼氏できた?」
「(違うけど、違うとは言いにくいな)…うん」
「毎回、毎回そうだよね。いつだって俺の気持ちは蔑ろにされている。俺は信じてたよ。また始められるかもしれないって。今度こそ幸せ掴み取れよ。もう2度と、こうやって人の気持ちで遊ぶなよ」
「うん、ごめんなさい」
彼の気持ちを軽く見ていたなんてことは一度もないけれど、そう思わせていたことにショックだったし、何より彼とこれでもう本当に終わったのだ、と実感した。
この日は、彼と付き合った記念日。
一生忘れない、13日。

昨年、人伝に彼が結婚したことを聞いた。
ショックを受けてないかと言われたら、それは何とも言えない気持ちにはなるけれど、これからもわたしは恥ずかしくない生き方を歩んでいこうと思う。

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