河野裕「いなくなれ、群青」

これは弱者の物語でした。読み始めから文体が村上春樹に似通っていましたが、最後になってその理由がわかりました。羊をめぐる冒険で鼠はこういいます。

「キー・ポイントは弱さなんだ」と鼠は言った。「全てはそこから始まってるんだ。きっとその弱さを君は理解できないよ」
「人はみんな弱い」
「一般論だよ」と言って鼠は何度か指を鳴らした。「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ」

それぞれに特別の事情を抱えた弱者が弱さを抱えたまま、権力あるいは強者の社会と対峙するという構造は、2つで同じものでした。

正直、説明的な情景描写があまりぐっとこんでしたが、ライトノベルの様に読みやすく最大公約数的な小説であること、弱さを抱えたものが弱いまま強者の社会に立ち向かっていくという構造は、人気の要因だと愚考します。

医師は弱さを抱えた人に寄り添うというのが第一義なわけだと思います。そのために医師/医学生が強くあるのでなく、弱いまま、しなやかに、生きていかないといけない、社会と立ち向かっていくというのも、いいのではないかと愚考します。自分自身、たくさん欠点を抱えていて、欠陥人間であり、しかしだからこそ、できることがあるのではないか、と安易な自己肯定に陥ってしまうのでした。


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