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「いい休日だった」って思いたい

何度目だろうか。

特別なことなんてなくて、平日に足りないと感じた睡眠を補填しただけの週末。
夏の空は夕焼けには染まってはいないだけで、時間が経過するにつれて青の元気がなくなっている気がする。

何か意味があることをしなきゃ、時間を浪費してはいけない。
しかし、カレンダーが赤と青の日は、何故か1番怠惰な自分が意識の中枢にいる。

普段より遅く起きて、適当にXを閲覧、友人のストーリーをInstagramでチェックしたらトイレに行く。適当に昼食を食べてYouTubeを見ていたらいつのまにか寝ていて、気づいたら16時。

ため息すら出ない。
平日への嫌悪が体全体を支配する。
しっかり寝たはずなのに体がだるい。だったらなんのために寝たのか。
寝た理由を教えてくれるなら、どんな神様だって信じてやってもいい。
黙ったまんまなら、僕は不可知論者のまんまで死んでやる。

神様と喧嘩がしたいわけでも、これ以上ぼーっとしているわけにもいかない。なんにせよ、残された時間を有意義に過ごさないといけない。
楽しもうという積極的な姿勢じゃない。
むしろ無理矢理にでも、休みを楽しむんだという脅迫めいた気持ちでベットを降りる。

金曜日の夜に脱いだままの形で床に転がっているズボンを履いて、カーテンレールにかかっている白いTシャツを着る。

寝起きの目はまだ懸命に目を閉じようとしているから、コンタクトがうまくはまらない。
この時間が1番嫌い。だったらメガネの方がいいと思うのだけれど、メガネが似合う容姿も金も持ち合わせていなかった。

コンタクトが目におさまると、キャップを被り、携帯と財布をズボンのポケットに押し込む。家中のスイッチを切ってサンダルを履いて扉を開けた。

東京、三鷹。暑い。
むあっというか、少し肌を削るような重々しい空気を感じる。

想像以上の日差しに目を開けることもできず、サンダルを履いたまま部屋に戻り、机の上のサングラスを手に取る。

礼儀も悪いし、部屋も汚れるから一度サンダルを脱ぐべきなのだろうけど、少しオシャレを優先したサンダルは足の甲を紐で縛っていて、もう一度履き直すなんて、日曜日の僕にはできかねてしまった。きっと金曜日か土曜日の夜だったら履き直せていたと思う。


行き先も考えずに、とりあえず三鷹駅まで歩いた。町を歩く人は皆、週末がもうすぐ終わりを迎えてしまうんだよと言わんばかりの空気を醸し出している。
空気中の構成物質は窒素よりも人の感情が多分に含まれていると教科書に書いておいたほうがいい。

居酒屋のおじさんたちも明日から仕事のはずなのに、満面の笑みを浮かべている。
お酒ってすごい。これは教科書に書かないほうがいい。

定期代は会社が負担してくれているのだから、週末は積極的に外出したい。
そのほうが得な気がする。でもこの考え方自体が僕を貧しくしているのではないかと不安になりつつ、緑色のゲートから駅に入場する。隣のゲートは赤く点滅して、サラリーマンが後ずさりしていた。後ろに並んでいた女性は怪訝な顔を浮かべたが、サラリーマンがその表情を確認することはなかったので、彼女の作った表情は無駄になった。表情の浪費家。

生ぬるい気温と決別している電車の中。
まばらの席が週末だという事実を思い出させてくる。むかつく。


一駅だけの移動はすぐに終わってしまい、気づいたら駅の北口から吉祥寺の町に踏み出していた。とりあえず横断歩道を渡り、ハーモニカ横町を練り歩く。
適度に人がいて、みんな満足そうに酒を飲んでいる。

僕も酒を飲もうか、それとも書店に向かおうか。
悪くない休日を達成するにはどちらが最適なんだろう。


何度目だろうか。
日曜日の終わりに吉祥寺に甘えている。
慰めるには暑すぎる風がハーモニカ横丁を通り過ぎた。


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