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朝日新聞Mリーグ ファイナル最終戦「TEAM RAIDEN / 雷電」の舞台裏

 Mリーグ2023-2024シーズンに新しいチームが加わることが発表された。しかも、ドラフト指名選手の内1名の、競技を含めた選考会も開くという。
 その前日には近藤誠一プロが勇退し新監督になることが話題になった。
 もっと前にはMトーナメント開催も発表されて、とにかくMリーグ界隈がにぎわっている。
 これについて「書いてほしい」という声もいただくのだが、正直、何も書けない。
 こういうタイミングで私が何かを書く時は「情報がない時」だ。ちょっと前に「近代麻雀」で「次のMリーガーは誰だ」というのを書いたが、あれは知らないからこそ書けた。
 だから逆に、私が黙っている時は、何かしらを知っているということである。知らないフリをして書くのは白々しいし、せっかくの盛り上がりに水を差すことにもなる。
 だから何も言わないし言えない。今回の記事の中でも、その手の話は一切出て来ないのでご了承いただきたい。
 ただし、近藤さんについては書きたいと思う。ご本人に取材をする許可を得たので「スーパースター列伝 近藤誠一編」を後日ではあるが書きたいと思っている。

【しゃー子とのテレビ電話】


 「朝日新聞Mリーグ」ファイナル最終戦は、雷電にとってもう少し気楽なものになるはずだった。
 だが、終盤でまさかの連敗が続き、最終戦を迎えた段階で4位の「EX風林火山」とのポイント差は30以内になっていた。
 つまり、風林火山にトップを取られたら4位転落なのである。トップじゃなくても、順位が下なだけで20ポイント差がつくし、2着順なら40差がついてしまう。
 最後を任された黒沢咲プロは、控室でずっと不安そうにしていた。
 瀬戸熊直樹プロは、黒沢の不安を払しょくするために「大丈夫だよお嬢。俺たちの最低限の目標はファイナルに残ることで、それは達成しているんだから、3位も4位も変わらないって」と言っていた。
 黒沢さんは「そうですよね」と言ったが、座ってそのやり取りを聞いていた高柳監督の背中は肯定しているように見えなかった。
 企業からしたら、賞金の1千万円差はデカい。4位は0円で3位は1千万円なのである。
 電通といえば世界を股にかけた広告代理店だが、それでも各部署ごとのお金に対する評価はシビアだ。それが大企業というものだ。
 瀬戸熊さんは、監督が醸し出す空気に気づいたわけではないだろうが「でも、1千万円はでかいけどね」とポツリとつけたす。黒沢さんは「もー! そういうこと言うと本当にプレッシャーになるじゃないですか!」と、笑ってはいたが、たぶん本当にプレッシャーになるのを嫌がっていた。
 自分のせいで1千万円の賞金が動く麻雀勝負。いま「近代麻雀」連載中(休載しているが)の「闇麻のマミヤ」にはオジサンになった治が登場するが、その治が「組」の代打ちをやらされた。赤木しげるが「気分じゃないんで」と言って治に打たせたのだが、意外と治は善戦した。
 だが、途中で組員から大金がかかっていることを聞いた治は、急に手が縮こまってしまい、それまでのように伸び伸びと打てなくなってしまう。
 人間、誰しもそんなものだ。
 コメント欄やSNSで威勢よくプロを「ヘタクソ」呼ばわりする人がいるが、自分がその席についたら、ビビっておもらししちゃうかもしれない。それぐらいMリーグは異常な「場面」なのである。
 黒沢さんはMリーガーを4年間つとめ、それまでにも多くのタイトルを獲得してきたベテランである。
 それでもこの時はいつもと雰囲気が違っていた。そわそわしているように見えた。
 高柳監督が急に立ち上がり「黒沢さん、ちょっといいですか」と控室の外に呼び出した。
 何だろう。
 さっきまで笑っていた本田朋広プロも真顔になった。控室が緊張に包まれた。
 とても気になったし、私は取材者としてお邪魔している身なので、本当はその様子を見に行くべきだ。それはそうなのだが、私にはそれができなかった。
 少しして、高柳監督と黒沢さんは控室に戻ってきて、黒沢さんは何かを持ってすぐ出ていった。
 この時、監督が何を言ったのかは「近代麻雀」の記事にしたのでここでは書かないことにする。高柳監督のインタビュー記事があるので、気になる方はそちらをご覧いただきたい。
 その代わり、後日、黒沢さんに聞くことができた。その時、何をしていたのか。

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