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Mリーグ最終戦の最終局はどうするべきか【後編】(文・黒木真生)

【プロ連盟のシステムを導入できない理由】

 Mリーグもプロ連盟の最終戦システムを導入すれば解決しそうなものであるが、それは無理である。
 理由は2位と3位の賞金額に差があるからだ。

 優勝以外のアガリを禁止した場合、2位と3位の賞金額に差をつけた意味がなくなる。団体主催のタイトル戦のように、賞金額の差がせいぜい数十万円ならまだしも、Mリーグは1,000万円の差がある。選手の最低年俸の倍以上の金額差なのだ。

 これはおそらく、長いリーグ戦をやる上で、首位が独走した場合の保険でもあったのだろう。ファンが興味を失わないために「2位争い」という「次の目標」も設定したものだと思われる。

 だから連盟システムを導入してしまうと、昨年の最終戦オーラスのような状況で非常に不自然になる。たった2,000点1,000万円がひっくり返るという「アツい局面」で、当事者のどちらもが役満やダブル役満を狙うという滑稽とも言える最後になってしまうのだ。

 では「順位が1つでも上がれば良い」というルールにすればどうか。
 もし3つどもえの状況だったり、奇跡的に4チームに優勝の可能性が残されていた場合にどうだろうか。
 たとえば、4位チームが満貫ツモで優勝なのに、鳴いて3,900の手をアガり「3位になりましたー」と喜んでいたら、結局はファンの心の暴動は起こるのである。

 これを何とかするには賞金額の差をなくすしかないのだが、今さらそれはできないだろうし、Mリーグ設立時に理念や信念をもって設定したものを、簡単に変更できないだろう。


【理念が明らかになった】

 今回のMリーグ機構の発表は、理念の発表でもあった。改めて以下に転載する。


▼競技姿勢の方針

Mリーグは、チームにとっての最大の目標であるシーズン優勝、一つでも上の順位を勝ち取るために、チームと選手が一丸となって全力で競技に臨む姿勢を重視する。

Mリーグは、チームのシーズンの順位はもちろんのこと、累年の成績・ポイント(累積ポイント)も未来永劫残っていく価値と考える。

Mリーグは、頭脳スポーツとして、チームの順位を向上させることが難しくなった場合においても、チームポイントを伸ばすために、全力で競技に臨む姿勢を尊重する。


 他のスポーツ同様、優勝の可能性があってもなくても、とにかく目の前の戦いに全力を尽くす姿勢を尊重する。それがたとえ、大きくエンタメ性を損なうことになってもやむなし。というものである。
 
 運営されている方々が苦労された跡が文面に残っている。「重視する」「考える」「尊重する」というところに、「村上淳プロの戦い方を尊重する。しかし、沢崎誠プロのような戦い方も問題はない」という含みがある。「○○しなければならない」とは書いていない。だから結局のところは、選手やチームの自由ということになる。そして競技なのだから、そういった自由があって当然なのだ。
 今回、こういったことを発表したのは、村上プロのような状況に陥った選手を守るためでもあると思われる。

村上最後


 

村上

ハッキリと正当化しておかないと、今後も「どうしたらいいか分からない」という選手が出てくる可能性がある。

 だからMリーグ機構は、ある意味で1つ大きな問題を解決したわけである。

【もし2年前に誰かがアガっていたら】

 ただしすべてが解決されたわけではない。Mリーグ機構が許してくれたとしても、ファンが許すとは限らないからである。
 
 2年前のファイナル最終戦最終局のことは、ほとんどの人が覚えているだろう。
 あんなにも多くの人が祈りを込めたオーラスがかつてあっただろうか。

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 「セガサミーフェニックス」の魚谷侑未プロがツモるか「U-NEXT Pirates」の小林剛プロから直撃すればフェニックスの優勝。そうでなければPiratesの優勝というシビれる状況だった。
 魚谷がリーチを掛ける。小林の手が早々に詰まる。小林は仕方なく字牌の対子落としでしのぐ。しかし、魚谷の待ちは字牌のシャンポンだ。アタリ牌の「發」を小林が持っている。
 徐々に小林の手から字牌が減っていく。
 過呼吸寸前の魚谷。アガったら気絶してしまうのではなかろうか。そんな心配をさせるほど、入れ込んでツモ山に手を伸ばしている。
 一方の小林は「サイボーグ」とあだ名されるほど強靭な精神の持ち主だが、さすがにここで「發」を打ったら少しは表情を変えるだろうか。並の打ち手なら、現時点で手がぶるぶる震えて牌がつかめなくなっているはずだ。それぐらい、追い詰められていた。もしかしたら、あの小林でも、口から泡を吹いて倒れてしまうかもしれない。
 両チームのファンが祈る。「振って」「振らないで」と。
 どちらのファンでもない人たちも悲鳴をあげながら打牌とツモを見守る。
 「もう見ていられない。次、小林がを打つかもしれない」
 全視聴者が覚悟した刹那、魚谷が6ソーを持ってきてしまった。
 これで小林は9ソーの対子が落とせるので、2巡はしのげる。何だこの緊張と緩和は。見ているこっちの身体が持たない。

 「ツモ」

 ん? なぜか沢崎誠がツモアガっている。

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