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プロ雀士スーパースター列伝 白銀紗希 編

【白銀紗希有名化計画】

 2023年のお正月に、白銀紗希(しろがねさき)が「女流桜花」というタイトルを獲得した。このタイトルを獲るということは、日本プロ麻雀連盟の女流リーグ戦の頂点に立ったことを意味するのだが、正直、私はあまり白銀のことを知らなかった。

 守りがしっかりしている、ちゃんとした麻雀を打つ子だというのは決定戦を見ていて分かったが、それ以外は、競艇ばっかりやっているという情報しかなかった。

 一度だけ仕事を依頼したことがあった。
 「夕刊フジ」からボートレースの番組出演依頼がたまにある。それまでは「東城りお、高宮まり、和泉由希子のうちどなたか」というオファーばかりだったのだが、スケジュールが合わなかった時に、苦し紛れに白銀を推薦した。「あまり知名度は高くないのですが、ガチで詳しいというか、毎レース買ってるような人がいるのですが」と言ってみたら「ぜひその方で」という話になった。
 彼女と話したことはあまりなかったが、公式戦の運営の仕事をやったり、採譜の仕事をやる姿を見たことが結構あった。競艇にハマりすぎていること以外は真面目そうだと思っていたので、話を進めた。
 忘れた頃に夕刊フジの担当者さんから連絡があり「また白銀さんに出ていただきたい」と言われた。つまり、彼女は前回の仕事先で好評だったということである。
 私は少し白銀を見直した。映像媒体に出ても、ちゃんとできるということが分かった。
 白銀は「競艇ばっかりやっている埼玉在住の女性プロで、あまり知名度は高くないけど意外と何かを隠し持っていそう」という認識になった。
 それと、埼玉の戸田にある「麻雀カフェ」というお店で働いているのだが、どうせ「戸田ボート」が近いからそこで働いているのだろうと思っていた。
 その白銀が女流桜花という大きなタイトルを獲った。最強戦の選手紹介VTRの撮影場所は競艇場なのかなあと。そんな風に思っていた。
 ところが、である。
 カネポンこと金本晃「麻雀最強戦」実行委員長とキャスティングについて話し合ったところ「別にタイトルホルダーだからといって出さなくても良いのではという意見が社内にはある」という話をされた。
 うわ、これはえらいこっちゃと。
 結局は各団体の女流のトップ選手は出してもらえることにはなったが、私は結構アセった。
 竹書房とか近代麻雀とかカネポンに対しての甘えがあったかもしれないと反省した。
 彼らは麻雀界の味方ではあるが、やはりメディアなのだ。商売でやっているのであって、麻雀プロへの慈善事業をやっているのではない。向いている方向はプロ雀士ではなく、読者と視聴者がいる方なのだ。
 最強戦にはタイトルホルダーが座れる優先座席が空いているなどという感覚は、絶対に持ってはいけない。麻雀界のような不安定な世界には、既得権益などないのである。
 これはちょっと白銀を、いや、白銀だけでなく、タイトルホルダーというものを、何とかしてやらんといけない。そう思った。
 ちょうど、森山茂和会長から「連盟チャンネルはバラエティ色のある番組が少なすぎるから、何かやってほしい」と言われていたので、その「言質」を活かすことにした。
 すぐ白銀に連絡して「連盟のYouTubeチャンネルで白銀さんのための番組をやりましょう。迷惑でなければ、白銀さんを有名にしたいです。どうですか?」と聞いたら「ありがとうございます。やってみたいです」と即答したので「では、何かやりたいことを考えてください。企画内容は何でも良いです。自分で考えてみてください」と言って、企画が通ったらディレクターを任せることになりそうな三田晋也とプロデューサーというか、お金のことを決める担当の古橋崇志をLINEグループに招き「白銀有名化計画」というグループ名を付けた。
 三田には特に何も説明していないから「何なんだろう」とは思っただろうが、彼はB型だから、いちいち聞いてはこなかった。古橋も私の性格を知っているから何も聞いてこない。必要なら私から説明する。しないということは、現時点で必要がないからだ。
 白銀から、すぐに返信があった。
 結構ビックリするような内容だったが、私は面白いと判断した。
 そしてまた白銀を見直した。こいつ、やるやんけ、と。
 問題は、その企画が通るかどうかだけだった。

【白銀は持っているのか】

 「プロ連盟がメディアに圧力をかけている」と、バカなことを言う人がいるが、実態はこんなものである。
 圧力がかけられるのであれば、リーグ戦の順位の上から順番に最強戦やモンドに出してもらっている。Mリーグだってそうだ。
 しかし現実は、一番権力を持っているのが「お客さん」であり、そのお客さんのニーズに沿って動くのが企業でありメディアなのであるから、自ずと私たちプロ団体も、それに合わせなければならなくなる。
 つまり「タイトルホルダーである白銀さんを使ってください」なんていう、押し売りみたいなことをするのではなくて、そのタイトルホルダーを「面白そうなもの」にすることを考えるべきなのだ。
 だから私は白銀に連絡し「有名化計画」などという失礼なタイトルのLINEグループをあえて作った。
 白銀はそれに拒否反応を示さず乗っかってきた上に、こちらの想像をはるかに超える企画を出してきた。
 そしてその撮影は終わり、動画が4月1日から4日連続でアップされることが決まったと連絡がきた。

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