原はなぜ試合終了直後に指を差したか(文・黒木真生)
その○○って若手、この前の試合で当たりましたが結構良い麻雀打ってましたよ。
話の流れでそんなことを言ったら、萩原聖人さんから「それ、ちゃんとその子に言ってあげた?」と聞かれた。
いえ、試合の合間でしたし。
「そしたら試合が全部終わってからでも言ってあげれば良いじゃん。黒木にそうやって褒められたらどれだけ嬉しいか。どれだけ明日も頑張ろうって気持ちになるか、わかんないの?」
麻雀のプロという明日をも知れぬ身にとって、そういった誉め言葉はありがたいのかもしれない。言葉ひとつで、折れかけた心が少しは真っすぐになるかもしれないのだ。
萩原さんは優しいから、若い役者にもそうやって言ってあげたりするのだろう。
だが、私はただ麻雀が好きだから頑張ってはいるが、本来、集団行動が苦手で、できればずっと1人でいたいタイプである。
面識のない若手プロに自分から話しかけるというのは、かなり気持ち的にしんどい作業なのだ。
話しかけても「この人誰?」と思われるのではないかとか。そんなことを考えるのである。
だが、まあそうなっても自分が恥をかけばいいだけだと思い直し、いつかちゃんと、そう言ってあげられるようになりたいと思っている。
まだ、やったことはないが。
【麻生ゆりの生の声】
試合が終わって麻生ゆりプロが対局スタジオから飛び出してきた。
「あの場所でちゃんと打てる人いるんですか? なんなんですかあそこは魔窟ですか?」
どないしたんよ。
「あそこで平常心で打てる人、頭おかしいと思いました。そういう話をインタビューで言おうと思ったけど、怒られるかもしれんと思ってやめました」
麻生さんが、本当はそう言いたかったのだという。
言えばよかったのに。
「え、ほんまですか? そんなん言わない方が良いかなって思ったんですけど」
麻生さんはしっかりとちゃんと打っていたように見えた。我を失った人の麻雀ではなかったと思う。
でも、本人は「真っ白」だったのだそうだ。
インタビューでは、正直な話をすれば良い。ただ、それが大会とか他の選手のマイナスにならなければ良いと思う。
今回の発言ならプラスになったはずだ。そんだけ大変な場所で打たされていて、じゃあ逆に良いパフォーマンスしている選手は凄いんだろうなと。そういう苦労が視聴者や、まだ出たことがないプロ雀士たちに分かってもらえるかもしれない。
初めて経験した人の「生の声」は貴重なのだ。
そんな話をさせてもらった。
「はー、そう言われたらそうですねえ。言うたらよかったなー。しもたー」
他団体の女性プロに私なんかが偉そうに言うと迷惑かもしれないと思いつつも、言ってしまった。
麻生さんは「正味の話」が尊重される大阪の出身なので、たぶんこのリアクションは「ほんま」なのだろう。そう思い込むことにした。
【みんな渇いている】
今回はたまたま、ベテラン2名、中堅2名、若手2名、女性2名が勝ち上がった。
まさに老若男女が、揃いも揃って全員が渇いている。
甘露を口にできるのはたった1人だけだ。
忍田幸夫プロは麻将連合の代表で、タイトルもたくさん取っている。本来、この大会に出てくるような立場の人じゃないのだが「若い人と打ちたい」と言いつつ、実はちゃっかりと「甘露」を狙っているに違いない。
58歳の新人、高口和之プロにいたっては「夢はMリーガーになること」と、むちゃくちゃなことを言っていたが、もしかしたら実現させてしまうのではないかというぐらいギラギラしていた。自分で「ジジイの下克上」というキャッチをつけるなど、とにかくギラついたオヤジだった。
その2人の息子ぐらいの年齢の小川稜太プロはしっかり打って決勝まで進んだ。キャッチの「スマイルリーチ」が出せないぐらいに緊張していたが、それはそれで初々しくて良かったと思う。リーチ掛けながらわざと笑う余裕などなくて当然なのである。
見た目はすでに部長クラスだが、実は小川君より若い渡邉浩史郎プロも鋭い眼光で優勝を狙っていた。結果は予選落ちだったが、早くも麻雀界に「薄毛キャラ」がいないことを察知し、かつカネポンにシンパシーを感じさせることに成功した感さえある。
小宮悠プロはあと一発、時限爆弾がさく裂していれば優勝していたかもしれないが、決勝に残って、その実力を見せつけた。社会復帰のために始めた麻雀が、今や「プロの芸」にまで昇華されていた。
出てきた8人全員が「勝ち」を渇望していた。
Mリーグができて麻雀界は潤ってきたように見えるかもしれないが、それはごく一部に限られている。
まだまだ麻雀の世界は砂漠のように渇いていて、そこの住人たちは皆、這い上がろうと必死なのだ。
【指を差さなかった原】
予選で高口さんから清老頭をアガった原は「例のポーズ」をやらなかった。
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