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プロ雀士スーパースター列伝 麻雀サイボーグ・小林剛(文・黒木真生)

【席、あったまってる?】

 私は小林プロのことを普段は小林「君」と呼んでいるが、彼は私の業界の先輩に当たる。
 私より1年だけ早くプロになっているのだが、3つ年下なので、小林君と呼ばせてもらっている。人前ではできるだけ「小林プロ」と言うようにしているが、ちゃんとできてはいない。
 彼との出会いは1994年か1995年、当時高田馬場にあった伝説のギャル雀「ポリエステル100%」であった。
 小林君はそこでメンバー(麻雀も打つ店員)をやっていた。
 彼が打っていて、私がそこに「ご案内」になった時、何気なしに「席、あったまってる?」と聞くと、振り向いた彼は「いわゆる『いい席に仕上げていますか』的な意味でいうと、そういうのは僕は信じないのでわかりません。僕の体温でちょっとあったまってるかも」と、笑いながら言った。
 小林君はプロになる前から「デジタル雀士」だったが、よほどの麻雀談義にならない限り、いちいち「デジタルですよ」という表明はしていなかった。
 だからたぶん、この時は私のことを「常連」として認定してくれて、彼なりに冗談を言ったのだろう。

【伝説のギャル雀】

 小林君が働いていたその店「ポリエステル100%」は当時ものすごく異彩を放っていた。
 まず店名である。麻雀店といえば「ロン」とか「大三元」とか「リーチ」とか。だいたいは麻雀用語を使うのが常識だった。
 なのに、服のタグに書いてあるようなものを店名にしたのだから斬新すぎる。
 店を作ったのは、最高位戦に所属していた河本智彦さんという京都出身のプロ雀士である。慶応義塾大学を出て百夜書房という出版社に就職しながらも最高位戦のテストに合格し、プロ雀士になった。そして退職し、お店を出したのである。
 店は大流行りで、ずっと満卓だった。
 変わっていたのは店名だけではなかった。
 店員がほぼすべて女子だったのである。それも、20代の「普通の、水商売ぽくない子」ばかりだった。
 もちろん、当時も麻雀を打つ女性は少しはいたが、だいたいは「ザ・水商売」という感じのオバサマたちで、女子大生とかはほとんどいなかった。
 小林君はその中にいた、数少ない男性従業員だった。
 かなりモテていたが、彼は少し迷惑そうにしていた。
 本人にこの時の話をしたら「僕はモテていないですよ。お姉さんたちばかりで、子供扱いされて可愛がられていただけだと思います」と否定していたが、私には、彼がモテているようにしか見えなかった。
 ただ、先ほど「普通の女の子」と書いたが、実は「ポリエステル100%」で働いていた人たちは、私が思うところの「普通の女の子」たちではなかった。
 中にはお客さんと「そういう関係」になる子がいたのだが、そうすると翌日にはお店のカレンダーにいろいろと書かれたりしていた。
 麻雀中にその手の話をネタにする子もいた。結構な下ネタがほとんどで、私もビビっていた。私は男2人の兄弟なので「女性が集まればそんなもん」というのを知らなかったから「こいつらヤベエ」と思っていたが、まあ、それはそれで普通だったのかもしれない。
 だが、小林君はそういう「ネタ」にされるのが嫌だったのかもしれない。とにかく、女子たちに「キャーキャー」言われていたが、完全に無視していた。

【女子のアピールをマナー指導で返す男】

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