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プロ麻雀界近代史 私が裏方に転向した理由

【麻雀界の黒子】

 「電影大王位決定戦」のお正月特番収録現場では、私は黒子の格好をしていた。だが、ドン・キホーテのコスプレ衣装レベルだったので、近くにいる人には顔がスケスケで、観覧に来られていた一般のお客さんから「あれ? 黒木プロじゃないですか。なんでそんな格好しているんですか?」と声をかけられた。

 小林剛プロや梶本琢程プロは解説席でプロ雀士らしい仕事をしている。が、私はアルバイトの学生でもできそうなことを、地べたを這いずり回りながらやっていた。
 そのことに不満があったわけではない。MONDOから仕事を請けているバビロンの一員として働いているだけの話だった。だが、自分はこうやっている方が良いのではないか。その方が適任だと周囲が思っているのではないか。そんな風に考えるようになっていった。
 
 「電影大王位決定戦」の決勝は金子正輝プロの優勝で幕を閉じた。私は、この大会の幕が閉じる直前のシーンが一番好きだ。優勝できなかった荒正義プロのインタビュー内容が良かったのである。


荒正義プロ

 「優勝できなかったということは、僕の力量が足りなかったからです。金子さんが勝ったのは、金子さんの麻雀が素晴らしかったからです」
 というようなことを言った。ありきたりな言葉なのだが、シャイで感情を出さない荒さんが、ちょっとだけ悔しそうに言ったのが印象的だったのだ。
 もちろん、優勝した金子さんは素晴らしかったが、荒さんだって力量が足りなかったわけはない。途中、一般観覧者からの質問コーナーもあったが「なぜあんな悪い待ちでリーチしたんですか?」という問いに対する荒さんの答えは、ことごとく面白かった。
 皆の前ですごい麻雀を見せた荒さんが、インタビューで悔しそうに振舞ったことで、この大会の値打ちが上がったと思った。

 とりあえずは無事に仕事が終わってホッとした。同時に、戦いを楽しんで観てくださったファンの方々が満足したようで嬉しかった。
 でも、それで良いのか?
 私は、自分が予選で敗退し、その場に立てていないことを悔しがっていなかった。そんなことは忘れて、収録がうまくいったことを喜んでいた。
 人としては普通かもしれないが、プロ雀士としては失格ではないだろうか。
 
 この頃は、そんなことばかりを考えていた。

 2000年になって、また若手の番組の企画を出したいという話になった。だが、ただやるだけでは通らない。ベテランを差しおいて若手だけでやるためには「何か」が必要だということになった。

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