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私が広報部長をやりたかった理由

【お前なに部なん?】

 3月3日は午前中から収録があって、私は夏目坂スタジオのサブルームにいた。スタッフの皆は、それぞれ忙しそうに撮影の準備をしている。
 そこに解説者の藤崎智プロが入ってきた。スマホをいじっていた私を見つけるなり「わざわざお前が嫌われ者になって、若いやつが守られてんだから、それでいいじゃねぇか、なあ」と肩を叩いてきた。

 よくないわ。
 
 私は照れ隠しもあってそう返したが、藤崎さんは「いいんだよ、それで」と言って解説室へ向かった。

 藤崎さんは私の同期なのだが年は5つほど上だ。普段から同期だという意識があるわけじゃないし、彼はタイトルをいくつもとっているトッププロだから、自分と比べる気にもなれない。ただ、何かあった時に、こうやって声を掛けてくれるのが藤崎さんという人だ。
 私は別に精神的に参っていたわけではないのだが、わざわざ言いに来てくれたことが嬉しかった。
 普段はサブルームには来ず、まっすぐ解説室に行くのである。

 藤崎さんは今、入会審査部の副部長を務めている。私は広報部長と法務部長を兼任している。
 だが、藤崎さんが格下ということではない。藤崎さんの上には前原雄大プロがいて、私のところには誰もいないだけの話である。
 最近は、前原さんは実務のほとんどを藤崎さんに任せ、責任だけをとる形をとっている。藤崎さんには部下がたくさんいて、部長を2つ兼任している私には部下が1人もいない。さらに部長職や副部長職に対しての報酬などは一切ない。
 プロテストの日に試験官や面接官を担当すれば日当は出るが、月給はないし、理事会に出席しても交通費すらもらわない。たぶん、テストの問題その他を作成して準備する若手の人たちの方がギャラは高い。実務の量が多いから当然なのだが、いわゆる管理職の手当てのようなものはないのだ。
 そういう、ちょっとヘンテコな組織が日本プロ麻雀連盟なのである。
 昔からずっとそうやってきているから、それはそれでしょうがないのだが、少し前までは部長という役職もなかった。競技部と道場部は存在していて、あとは経理担当者がいるだけだった。プロテストは季節のものだから、その時だけプロテスト実行委員会が組織されて動く。
 そうやっている内に、理事が抱える仕事がどんどん増えてきた。
 その都度、適切と思われる人が担当し、助け合いながらやってきた。だから多くの人がそれらの事業に関係し、関心を持つようになるので良いのだが、トラブルがあった時に責任を取るのが誰かというのが明確ではなかった。同様に、瞬時に難しい決断を下す責任者が誰なのかも曖昧だったのだ。
 そのままだとトラブルが増えると思った私は、業務の整理と部署分けを提案した。ちゃんと部長職を決めて、その人がある程度の決裁権と責任を持つようにした。
 競技部と道場部は前からあったからいいとして、プロテスト実行委員会も入会審査部という名称の部署にした。会計は経理部。あとは山井弘プロが大量に抱えていた仕事を全部ひっくるめて事業部とした。
 そして私は困った。私の仕事は何部なのか。
 馬場裕一プロが作ったライター集団「麻雀企画集団バビロン」の代表取締役をやってきたので、雑誌や書籍などの紙媒体の「文化」はだいたい理解しているから、その手の依頼があると私の方に回されてきた。「モンド」や「われポン」などの麻雀対局番組の現場にも触れてきたので、テレビ業界の仕事のやり方も、他の麻雀プロよりは分かっていたから、その手の仕事もやらせてもらっていた。夏目坂スタジオの言い出しっぺは私で、森山茂和会長を説得して作ってもらった。日本プロ麻雀連盟チャンネルも私が責任者だった。
 これらを考えると、私が就くべきはメディア対応関係の部署というのが適切だろう。
 テレビ番組だったり本を作る仕事であれば、その売上の中からギャラを取ることもできる。
 でも、私がその時点でやりたかったのは、もっと違うことだった。

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