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ケネス徳田伝説⑧ 足の裏ドロドロ事件

【尾沢老人宅にて】

 昔からの麻雀ファンなら片山まさゆきさんの漫画「スーパーヅガン」に出てくる尾沢老人というキャラをご存じだろう。ムカフーン打法というのを駆使する老人なのだが、そのモデルになった、元近代麻雀オリジナル編集長で、現在はデザイナーをやっている尾沢さんという人がいる。

 その人が新築マンションを買って、仲間を集めてパーティをやった。
 そこに私たちバビロンのメンバーも呼ばれた。

 尾沢さんは編集者として片山さんと馬場裕一さんを見出し、世にプロデュースした人で、馬場さんの恩人でもある。そして私にとっても恩師だ。
 私は学校で作文すらまともに書けなかった人間なのだが、いきなり実戦の場に引きずり出されてたくさんのものを書かせてもらった。
 その際に徹底的にダメ出しして鍛えてくれたのが担当編集の秋さん。一方で、あまり細かいことは言わず、企画の作り方やそれに合った文章の方向性などを教えてくれたのが尾沢さんだった。

 当時バビロンには5人とか6人ぐらいいて、ほとんどみんなで行ったのだが、そこにはルーキーの徳田もいた。
 入ったばかりだったから、尾沢さんとは初対面だった。

 パーティの最中、カジノ大好きアメリカ人翻訳家のライアン・モリスがみんなにポーカーやブラックジャックを手ほどきしていた。

 そこに尾沢さんが来て「ちょっとみんな、動かないで」と言った。

 裏カジノに入ってきた警察官みたいなことを言うから、みんな「摘発されたー」とか言って笑っていたが、尾沢さんは全然笑っていない。
 
 「えー、今、廊下に足跡が多数あるのを発見した」

 と、まるで警官のように話す。

 「そこで申し訳ないのだが、皆さんの足の裏を点検させていただきたい」

 と、皆が正座して中腰になり、足の裏が見えるようにすると「あ、君だな!」と、徳田の足を指さした。

 徳田は靴下を履いておらず裸足で、そして足の裏は真っ黒だった。

 ライアンは「徳田の靴の中がドロドロってこと?」と笑っていたが、尾沢さんの奥様はお寺の小僧のように、雑巾で床をせっせと拭いていた。真顔で。


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