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「打牌が遅い問題」はスポーツマンシップが解決する(文・黒木真生)

私はカモられた

 私は打牌が遅い人が苦手である。

 初心者の方なら仕方がないので大丈夫だが、ある程度の力量があるのにわざと遅く切ってくる人が苦手なのだ。

 以前、ある雀荘で打っていて、上家の人が遅いだけではなく、いわゆる「迷い箸(まよいばし)」を頻繁にしてきた。嫌だなーとは思っていたが、4枚目の西で迷い箸をされた時にラス半をかけた。

 そしたらその人も「ラス半」って。

 わし、めちゃめちゃターゲットにされとるやんけ!

 すっごく嫌な気分になって帰った。阪神が負けた時ぐらい機嫌が悪くなった。

 これは、今Twitterで話題になっている「打牌の遅さ」のテーマから少しずれているような気もする。だが、「打牌の遅さ」にも色々な種類や目的があるのだ。

 私がやられたのは、相当悪質な部類に入る。何せ、相手をイラつかせるためだけにやっているのだから。

 それに引っかかる方もアホである。が、アホしか引っかからない詐欺(さぎ)の場合だけ、詐欺師が無罪ということはない。

1:わざと遅く切る

2:深く考えているプロが遅く切る

3:まだ慣れていないから遅くなってしまう

 だいたい上記の3パターンだと思うのだが、3については論じる必要はないだろう。ある程度は仕方がない。

選手宣誓の意味

 元阪神タイガースの中谷仁さんが監督を務める智辯和歌山が夏の甲子園を制した。昔はプロ選手がアマ選手を教えることができなかったので、とても珍しく感じる。

 高校野球の開会式では「選手宣誓」が行われる。

 あれ、私は前からずっと「無駄」だと思っていた。

 私は少年野球をやっていたのだが、大会の最初にやはり「選手宣誓」をやらされる。

 「スポーツマンシップに則り、正々堂々戦うことを誓います」

 と言うのだが、数時間後には完全に無視である。

 身体に近いボールが来たら、よけるフリをしてユニフォームにかすめさせ、審判に「当たりました」とアピールして一塁をせしめる。

 ワンバウンドのボールが来たらジャンプしてよけるフリをしてスパイクの裏に当てる。

 たまに優勝する強豪チームはダブダブのユニフォームを着て、かがんで構えてストライクゾーンを少しでも狭くしようとしていた。自分たちも似たようなことをしていたくせに「あいつらセコいな」と悪口を言っていた。

 ランナーがいたら、打った後にバットをホームベース前に捨てて、相手の守備を少しでも邪魔する。

 子供の頃から、そういうセコい野球をずっとやってきた。

 だから私は「選手宣誓」なんて空しいと思っていた。選手全員集めて、代表者出して大嘘ついてどないすんねん。そう思っていた。

 中学でも似たようなものだった。大事な場面でインコースをよけたら、後で監督からゲンコツもらうこともあった。どうせ痛い思いするんなら、軟球をケツや背中で受けた方がマシ、という「教育」であった。

 だからやっぱり「スポーツマンシップ」など、ただの「建前」というか「形式」だと思っていた。

 

 が、自分が野球をやらなくなって、プロ麻雀界に入ってから気付いた。様々な世界のプロ選手たちは、ものすごくスポーツマンシップにのっとってやってるなと。

 それは野球に限らず、相撲、柔道、なんでもそうだ。

 ルールの抜け道なんていくらでもある。でも、それは「あえて」突かない。それをやり出したらキリがないからである。お互いがそれをやると「泥仕合」になる。

 子供の頃はラフプレーをしても大怪我につながらないという事情もあるだろう。極端な話、小学生が軟球を相手の頭にぶつけても、ヘルメットがあるのでほとんど怪我はしない。

 だが、プロでそれをやったら死人が出る。

 それから、プロとしての矜持というものもあるし、何よりプロは「ファンのため」にプレーしているという建前と、「生活のため」にプレーしているという本音がある。だから、その世界を汚いものにしない。高級マンションを買った住人が、共用部分の廊下にゴミを捨てないのと同じで、キレイにしておいた方がお互いのためなのである。

 汚いプレーが横行する「汚らしい世界」になったら客が離れる。客が離れたら自分たちの生活も成り立たなくなる。当たり前の話だが、そう考えたら誰も酷いプレーはできなくなる。

 麻雀の世界も同じで、私はこの「打牌の遅さ」問題は「プロ選手としてのスポーツマンシップに則り、適当な速さで牌を捨てる」と個々人が心の中で宣誓することで解決できると思っている。ていうか、今まで50年ぐらいはそうしてきたのだ。プロに限らず、その辺の雀荘でも。

時代は変わる

  ただ、今はそれで済むかもしれないが、近い将来が心配である。

 私が連盟に入ってすぐの頃、石崎洋プロが鳳凰位を獲った時の祝勝会で、打牌スピードについて話題になった際、沢崎誠プロが言った言葉で私はすべて納得した。

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