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流れの正体 小林剛はガチのマシーン

【60秒の大長考】

 約1分間もの大長考をした。
 小林剛プロが所属する団体の年間リーグ戦王者を決める、第4期将王決定戦の最終戦オーラスのことだった。
 小林プロは前年度の優勝者で、今期は防衛戦。つまり勝てば連覇で、最終戦最終局の時点で首位だった。
 とはいえ二番手とは僅差。オーラスが無事にすめば小林プロが優勝だが、小さな手でも二番手がアガれば逆転負けとなる。
 小林プロはいかにもアガれそうな3メンチャンでテンパイしていたが、余った八萬が実は二番手のアタリ牌だった。
 自分のアガリの可能性はかなり高いが、この八萬はどれぐらいの確率で放銃になるだろうか。
 それを約1分かけて考えた。
 結論は10%程度。なら打つしかない。河に八萬を放って優勝を逃した。
 しかも相手の手牌は、小林プロからの直撃かツモアガリしかできない限定的なテンパイで、待ちはカン八萬だった。
 普通の人ならなら7、8年は後悔しそうな放銃だが、小林プロは表情ひとつ変えずに点棒を支払った。その後も「打たなきゃ良かった」とか「失敗した」とかいうネガティブな発言は一切せず、後悔もせず淡々と「しょうがない」と割り切った。
 決して強がりで言っているのではないと断言できる。彼はそういうマシーンな男なのだ。
 取材をしてみると「あらためて計算してみると少し間違っていて、もう少し放銃の可能性が高かった。で、正しい計算ができていれば打たなかったんですよ」と言ったので、「じゃあやっぱり後悔してるの?」と聞いたら「いや、後悔はしていません。それは単に僕の計算能力が低かったからで仕方がない。判断が間違っていたのではなく計算能力の問題だから仕方がないのです。この手のことは後悔してもしょうがなくて、ただ自分のスキルを上げていくよう努力するほかはないんですよ」と答えた。
 それは深夜のロイヤルホストでの会話だったが、たぶん早朝の軽井沢のペンションで相手が美人女流プロだったとしても、彼は同じテンションで同じように言っただろう。なぜなら彼は正真正銘のマシーン野郎だから。

【牌の恩返しはあり得ない】

 そういう鉄のメンタルというか冷徹人間みたいな奴にしかデジタルは務まらんのではないのか? 私が前号から引っ張ったのは、これを小林プロに問いたかったからだ。

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