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プロ雀士スーパースター列伝 白鳥翔編

【森山会長のお誘いを断った】

 2013年3月5日の深夜、白鳥は初めて麻雀で負けて泣いた。新橋のあたりをうろうろしながら泣いた。しくしく泣いたのではなく、叫びながら泣いた。どちらの方向に向かっているかも分からなかったが、どうでも良かった。ただひたすら悔しかったのだ。

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この子は14年後、麻雀に負けて夜中に泣き叫ぶ

 
 白鳥は2011年、25歳の時にA2リーグに昇級しているが、これは当時の最年少記録だった。その頃、山井弘や勝又健志から「スパルタ会」に誘われたが「多分理解できないと思います」と言って断った。

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先輩や組織に媚びるような大人になりたくはなかった


 「スパルタ会」とは、森山茂和会長が「麻雀の体勢論」を若手プロに教えるための麻雀研究会の1つだった。小島武夫、荒正義、前原雄大らが教えに来ていて、瀬戸熊直樹、佐々木寿人、滝沢和典、猿川真寿らが教わっていた。
 
 そこに呼ばれるということは、ある種の期待をされているということでもある。
 だが、白鳥は断ったのだ。
 それは、麻雀観が合わなかったからである。
 当時の白鳥の麻雀はいわゆるデジタル的だった。勝負事の流れを意識する「体勢論」を否定するのがデジタル的な考え方なので、スパルタ会に参加しても意味がないと思ったのである。

 白鳥といえば世渡りが上手で、トントン拍子で出世した感があるが、実は森山会長からのお誘いを断っているのであった。

 自分にはそれなりに自信があったし、本来、人に媚びてまで世に出たいとは思わないタイプの人間なのである。

【デジタルとアナログのハイブリッド】

 冒頭の2013年3月5日に「第3期麻雀グランプリMAX」一次予選があり、森山、黒沢咲、ともたけ雅晴と対戦した。
 白鳥は森山と黒沢にボコボコにされて負けた。ツイてなかったわけじゃないのに、力負けしたと思い、悔しかった。
 落ち込んでいたら森山に声をかけられた。「自分では強いと思っているかもしれないけど、全然だからな」と言われ、悔しさが増した。
 いつもは行かない飲み会の席に初めて顔を出した。初対面の猿川真寿がいて、口論になった。
 猿川も悔しい負け方をしていて機嫌が悪かったらしい。
 口論の内容はくだらないことだったが、最終的には猿川に胸ぐらをつかまれて、壁に押し付けられるという屈辱を味わった。
 ただの酔っ払いの麻雀打ちの喧嘩だったが、本人たちはそれなりに大真面目だった。
 
 白鳥は猿川の身体を押し返して居酒屋を飛び出し、泣きながら深夜の新橋を歩き回った。

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鉄琴を叩いている時は、まさか猿川にケンカを売られるとは思っていなかった
 

 翌日、白鳥は滝沢に電話をかけて「スパルタ会」に行きたいと言った。


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