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若手プロに知ってもらいたいこと⑦ 一瀬由梨はプロだったか

【泣くまでのストーリー込みで】

 先日行われた麻雀最強戦2021ファイナルを題材にして「プロ論」を書こうと思っていたのですが、あまりにも素晴らしい内容だったために、別の原稿(瀬戸熊直樹プロの話)を書くことになってしまいました。
 
 野球でもボクシングでも、最後の最後に大逆転で優勝するのが、もっとも盛り上がる終わり方ではあるのですが、それにしても倍満ツモ条件で、しかも裏ドラがのったからこそ優勝というのはドラマティックすぎましたね。

 試合後は選手も実況も司会も泣くという珍しい現象が起きたのですが、もっとびっくりしたのは、試合中に泣いてしまった選手がいたことです。

 一瀬由梨プロは、オーラスの親で2,000点オールをアガったところで泣いてしまいました。この時、一瀬さんはまだトップからはかなり離されていて、泣くタイミングとしてはかなり不思議だったのです。

 試合が終わって対局会場から出てきた一瀬さんが、控室の前で誰かと話をしていました。私が「なんで試合中に泣いたの?」と聞くと、また泣きそうになりながら「えっと、えっと…」と気持ちを作って教えてくれました。

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 「凄いメンバーと大きな舞台で打たせてもらっていて、この幸せで貴重な時間がもうすぐ終わってしまうんだと思ったら、急に涙が出てきてしまったんです」

 分かるような分からないような理由です。
 おそらくですが、彼女の脳もかなり疲弊していたと思います。

 人間の脳みそって、他の臓器や筋肉と同じで、エネルギーを使って動いているんですよね。でも、ジョギングしていて足が疲れたとか、ずっと細かい作業をしていて目が疲れたとかは自覚できるのですが、脳の疲れってあまり自覚できないんです。
 その自覚する器官が脳そのものだからです。
 
 麻雀最強戦ファイナルの半荘2回は、普段の麻雀の2回とはだいぶ違います。
 プロ雀士の皆さんは経験されているでしょう。アマ選手の方でも、競技会や大会に出たことがある人は分かると思います。フリーやセットの麻雀なら10回ぐらい平気で打てるのですが「この4回だけ」みたいに集中する麻雀って、終わった後に何もできないぐらい疲れるんです。

 最強戦のファイナルみたいに、ものすごく大きなものがぶら下がっていると、欲望と緊張がマックスになります。「絶対勝ちたい」という気合満々の状態で打つ上に、それをカメラで撮影されて生中継されるわけですから、脳の疲れはハンパじゃないんです。

 2020ファイナルでは本田朋広プロが[白]を、2021ファイナルでは醍醐大プロが同じく[白]を「なぜか」切ってしまいましたが、脳のエネルギーが欠乏したことが関係していると私は思っています。
 マラソンランナーが、ランナーズハイになって気づかずに走っているけど、とっくに足の筋肉には栄養がいきわたっておらず、急にこけてしまうのと似たような現象だと思います。

 一瀬さんは打牌の間違いはしませんでしたが、感情のコントロールができなくなったのではないでしょうか。
 極限状態になると人間は変なことを考えたりします。
 自分がアガって「さあこれから連荘」という時に「終わってしまう」という考えが浮かぶこと自体がおかしいのですが、そういう状態になってしまうのが、最強戦ファイナルという「魔窟」なのです。

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 しかも大会の前にカネポンこと金本晃委員長から「同じ服ばかり着てくさくないのか」と、一瀬さんがお母さんにもらったワンピースに対して酷いいじり方をされ、自宅で号泣してしまっています。
 それで涙腺が一度おかしくなっていたから試合中に泣いてしまったのかもしれません。

 「プロ雀士が試合中に泣くなんてダメでしょう」という見方をする人もいると思います。しかし同時にプロ雀士は「商品」でもあります。
 大事な大会前にカネポンにおかしなことを言われて泣き、それをプロ連盟の広報のオッサンにYouTubeでバラされ、でも、試合の調子は良くてあれよあれよとファイナル決勝まで残り、相手は元最高位、元鳳凰位、元女流桜花という、座って顔を見ただけで泣いてしまいそうな人と麻雀を打たされたわけです。
 まあ、その一連の流れを見てくれるファンが少しでもいたのであれば、変なタイミングで泣いたっていいのではないかと。実際に私のnoteのネタにはなったわけで、個人的な意見としては「一瀬さん、ようやった、お疲れさん!」です。

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 試合が終わってすぐ、私はカネポンに「是非、一瀬さんを使って、これから麻雀を楽しみたい若い女性ファンのための企画をやってください」とお願いしました。

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