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罠にはまった女流プロ好美(仮名)の場合【文・和泉由希子】2

20代前半の頃だった。
雀荘で働いてはいたが、まだプロではなく。
「麻雀界の事も全然知りませんでした」と話す。

当時、働いていた雀荘で、よく話題に上がる男がいた。
「メンバーさん達が、AさんAさんって言うんですよ。でも私は会った事なくて。もう一年くらいこの店にいるのに、そんな人見た事なくて」

一年以上前に、常連だった男だった。
当時、毎日のように来てくれて、メンバーとも仲が良かったようだ。
関西の出身なのか、良く喋る面白い男で、皆に好かれていたんだろうなと勝手に想像していた。

ある日、その人が来店した。
古参のメンバーが「Aさん!!」と反応した。
『おー!久々やなぁ。仮釈もらって、出てきたで』

どうやらオレオレ詐欺で捕まっていたらしい。
実刑喰らってお勤めしていたが、仮釈放を頂いたらしい。

その日にみんなで飲み行く事になり、刑務所での生活を面白おかしく話してくれた。
「前科のある人」を初めて見たわけだが、特に嫌な印象は無かった。
それどころか、飲みの場でドリンクを気にしてくれたり、気の利いた優しい男だった。

その日を境に、彼は頻繁に来店するようになった。
まだ仕事もしておらず、ぶっちゃけヒマだったらしい。
もともとメンバーと仲も良いので、なんやかや一緒に遊ぶようになった。

とはいえ、当時の良美には彼氏がいたので、男女の意味で何かがあったわけではない。
ただの友人の一人だった。

そんな関係がしばらく続いた頃、彼氏が仕事を辞めてきた。
上司といろいろあったらしい。
まぁそんな事もあるかと思っていたら、そのまま働かず、良美の収入を当てにするようになった。

耐えられずに別れようとしたが、別れてくれなかった。
一緒に暮らしていたが出てってくれず、揉めに揉めた。
「お前を殺して俺も死ぬからな!」と言われた。

そんな折、手助けしてくれたのがAさんである。

相談に乗ってくれて、話し合いの場にも同席してくれた。
見た目が屈強な男で迫力があったらしく、それまでグズっていた男が、渋々別れを受け入れてくれた。

彼の荷物も運び出し、一息ついた頃にAさんが言った。

「ずっと待っとったんやけど、もうええかな?
付き合いたいんやけど」

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