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良すぎても【文・佐々木寿人】

 小島武夫さんが亡くなられて5年が経つ。
 思えば私は、新人の頃からよく仕事で先生とご一緒させて頂いた。
 地方に行った時のことだ。
 「疲れたなぁ」
 帰りの新幹線で先生が珍しくそう言われた。
 そりゃそうである。
 この時先生は75歳で、私が34歳。
 40年後、私は先生のように元気で働けているだろうか。
 そう思ったことをよく覚えている。
 ただ同時に、先生がビール片手に笑顔で話しかけてくるとなんもかんも忘れてしまうのだ。
 鳳凰位を獲得した時に、先生と乾杯したかったなぁなんて最近ふと思う。
 この時期になると特にそう感じるのかもしれない。
 例年夏に行われる帝王戦というタイトル戦には、「小島武夫杯」の冠が付いているからだ。
 
 コロナ禍で4年ぶりの開催となったが、私は前回分の鳳凰位シードで一次トーナメントからの出場だった。
 ここからは、二戦で上位二名勝ち上がりのシステム。
 初戦を2着で終えた私は、二戦目も2着ならほぼ勝ち抜けというポイント状況だった。
 南2局、このゲームも2着目の私は親番を迎えていた。

 何とも記憶に残る配牌だった。
 234の三色もあれば、チートイツもある。
 仕掛ければあっさりアガれそうな手牌だ。
 第一打を9とすると、すぐに南が出た。
 ドラはいずれ切り出す前提で、私はこれを仕掛けた。
 打④。
 次巡、ドラの白が重なった。

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