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実在した!モデルが語る麻雀放浪記②女衒の達「フトコロ具合いによっては一発、荒技をやるのも仕方なかった」


船の上なら客は逃げない

中島 捕鯨船ってーー?、さっきいってたのは何ですか。
阿佐田 雀荘じゃ、ちょっと勝つと客が逃げちゃうでしょ。客が逃げられねえととろはないかって、ずいぶんそういってた。それで、船なら逃げられないだろうって考えたんだ。
中島  ああ、それで捕鯨船ですか。
阿佐田 神戸だったかな、試験うけたんだろ。船に乗るための⋯⋯。
野口 そう。ほんというとわたしは、そのとき年齢がひっかかっちゃうんだよ。年齢制限で、二つぐらい余分なの。そんなこといわねえでって、特別に加えてくれたんだ。
中島 なるほど、船の上なら逃げられませんからねえ。
野口 大体、小説のとおりだよ。船の上じゃ、一度も負けなかった。毎晩、徹夜さ。乗組員は給料を帰国したあとで貰うんです。だから帳面麻雀だ。帰国してみたら、乗組員に渡す給料は全部わたしのボッポに入る。
秋武 そうだろうな。
野口 そのかわり、向こうへ着いたら、鯨なんかとれるわけがない。バテちゃって。
阿佐田 鯨って、素人にとれるんだろうか。むろん履歴をいつわってるんだろうけどさ。
野口 秋の航海も申しこんだんだけど、ことわられちゃった。あなたは一回でこりごりだって⋯⋯。その会社はあのときから、船の中での麻雀が禁止されちまった(笑い)。
阿佐田 船に乗る前だなあ、モンペとはずいぶん苦闘したなあ。二人とも栄養失調になってな。
野口 夜中に、パン屋に行く奴か⋯⋯(笑い)。売れ残りのパンを、ほとんどタダでわけて貰ってきて、それが唯一の食事。それから、トウガランをカケソバの中にドサッと入れて、かきまわして呑んじゃったり⋯⋯。
阿佐田 内山くんの坊やがいたね。
野口 そうそう。奴が、他人の空地に堀っ立て小屋をおったててね。わたしは牢名主みたいに、毎晩そこで寝てた。
阿佐田 ぼくも寝てたぜ。
野口 いやぁ、イロさんは毎晩じゃなかったろ。わたしはずうっとだ。トタンとムシロでできた乞食小屋だね。雨なんか降ると大変だ。そこで破れ布団にくるまって、丹下左膳だな⋯⋯。カモよ、居てくれ、なんて祈ってた。
阿佐田 また、あの頃はカモがいなかった。麻雀屋にさっぱり客が寄らないんだ。
野口 そう、いろんな仕事師が荒らしちゃったからね。麻雀屋へいって打ったんじゃ、ヤバイってことになったんだ。
阿佐田 モンペが足におできをこしらえて、それがなおらないで、膿んでくるんだ。あれ、栄養失調だろう。
野口 熱が出てきてねぇ。痛くて一睡もできない。ヒイヒイいって泣いちゃった。。
阿佐田 それでも医者へ行けない。だれかコロさなくちゃ、菜っ葉も喰えねえんだ。
野口 腫れた足をかかえて、這うように麻雀屋まで行って"こん畜生ッ、だれかと打つまで帰らねえぞ"って。びっくりしたね、経営者が……。
阿佐田 世話場だったなあ。
野口 忘れられないね。もっともわたしは、いつも世話場だ。
阿佐田 モンぺとのことじゃ、まだまだあるんだ。そのうち小説にしようと思ってるからね。あんまりしゃべれないよ、今は⋯⋯。
秋武 ター坊、どうしたろう。
野口 そうだ、どうしたろうなあ。まったくの行方不明だろう、奴は。
阿佐田 傑作だったね、あの男は。麻雀のバイニンに、なるべくして生まれてきたような奴だったな。
秋武 細ってい近眼の眼でね。ツモった牌を眼のそばに持ってっちゃ"あ、これでアガりました"⋯⋯。見ると四暗刻なんだよ。とぼけやがってさ。
野口 煮えたか煮えないかわからないんだ、いつも。しぶとかったなあ、奴は。
阿佐田 悪も悪だった。ター坊も、そもそもは、ぽくが教えこんだんだけどね。
野口 さっきちょっと話に出た一盃日ってクラブで、ター坊とイロさんとわたしと、三人そろって居候になったときがあったね。客が災難だよ。店が終わると朝まで三人で、麻雀の討論だった。
阿佐田 あのママ、死んだよ。一昨年だったかな。息子の進介君から電話がかかってきて、ぼくは葬式に行った。死ぬまで、ぼくやモンペに会いたがっていたらしいよ。

フトコロ具合で荒技一発

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