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私設Mリーグダービー12 微差は大差【平岡陽明】

麻雀で負けた日は、サイゼリヤでティラミスを肴に、赤ワインで悪酔いするのが私のルーティンである。

その日も私は家の近くにあるサイゼリヤに立ち寄り、注文を済ませた。

しばらくすると、猫の耳をつけた自動配膳マシンが、ティラミスの皿とグラスワインを届けにきた。私は立ち上がってそれを受け取り、「完了」ボタンを押した。猫マシンは「ごゆっくり」と言い残して帰っていく。

 

どうでもいいことかもしれないが、「いい案が思いつかなかったとき、とりあえず猫キャラにしとけば、世の猫好き票を取り込める」みたいな風潮が私は嫌いだ。(←麻雀に負けたのですこし機嫌がわるい)

 

私は糖質の塊であるティラミスを口に運び、口の中が甘ったるくなると、同じく糖質の塊である赤ワインで口中を洗い流した。この背徳的な糖質ペアリングだけが、先ほどまでの敗戦を癒してくれた。

 

むろん、高血糖による多幸感が体内に吸収されてしまえば、ハネマンを親っかぶりした時のような失望感がすぐさま襲いかかってくることは、百も承知である。けれども、こうでもしなければ、まっすぐ家に帰る気にはなれなかった。

 

私は常連の雀荘のアプリを開いた。

そこに私の直近の戦績が映し出される。

4343234334334243

なんと16戦連続ノートップ。

ため息が出た。どうしてこんなに負けけるんだろう?

 

主観的に言えば、ひたすら手が入らず、地蔵のように3着や4着を引かされることが多かった。南3局やオーラスをトップ目で迎えても、定規で測ったようにきっちり捲られた。

 

よくあることだ。よくあることが、16回続いたに過ぎない。自分に言い聞かせるが、それで済めば糖質は要らない。

 

私は酔って人恋しくなってきたので、古くからの友人であるタクシー貴にLINEを打った。

〈ここんとこ、16戦トップなしだよ。俺って麻雀弱いのかな〉

〈弱いでしょ〉

あまりに即答だったことに傷つく。聞く相手を間違えた。

 

私は気を取り直して、メタボリック健にLINEを打った。

〈ここんとこ16戦ノートップ。俺ってひょっとして麻雀弱いのかな〉

〈えっ、強いと思ってたんですか!? 💦〉

最後の汗マークの絵文字は、健なりの気遣いなのか、どうか……。

 

私はワインをお替りした。一緒にプリンも頼んでやろうかと思ったが、どうにか思いとどまった。麻雀に負けたくらいで、糖尿病に対してゼンツするなんて、箱下2万点のような人生だ。そんな人生、やってない。

 

「スランプのときだけ、人は成長している」

そんな言葉を思い出した。もちろん私ごときの雀力で、負けが込んだときに「スランプだ」と言い張るのは、おこがましいのだろう。しかし、私のことをいったん脇へ置けば、この言葉は的を射ている。

 

調子のいいときは、すべてが「手なり」でうまくいってしまうので、反省は少ない。しかし反省のないところに成長はない。だからスランプのときだけ成長しているというのは正しいのだ。

 

次の言葉はどうだろう。

「一夜で成功するには10年かかる」

映画監督のウッディ・アレンの言葉だ。

要するに、下積みには10年かかると言いたいのだろう。

 

これに似た言葉でいえば、巨人軍の川上哲治は、「冷や飯をうまく食った選手が大成する」と言った。下積み時代に腐る選手を山ほど見たのだろう。

 

こんな言葉もある。

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