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得意なルールなら勝てるの?【アメジスト机】

もっとしびれる麻雀が打ちたい

「3卓ラストありがとうございます。ご優勝は児玉さんです」
 このセリフを、もう何回聞いたことだろう。先輩プロに紹介されたフリー雀荘「ボヤージュ」で俺は平均着順2.3を切っている。
 この店は小ぎれいで居心地がいいので気に入ってるけど、来る日も来る日も勝っていると少し飽きが出てきた。ぜいたくな悩みなんだろうけど。店を変えようかな? それとも……。
「よう、児玉、相変わらず調子いいじゃない」
 声をかけてきたのは同じ麻雀プロ団体の、浅間先輩。俺にこの店を紹介してくれた人だ。
「あ、浅間さんはどうですか?」
「まあ、俺も勝ってるよ。この店は、なんていうか、普通に強いヤツが勝てるからいいよな」
 ルールはほぼMリーグルールだけど門前祝儀なので祝儀の動きがやや少ない。そして6万点コールド終了なし、箱下精算ありなのでトップがまともにえらい。当たり前みたいに思うかもしれないけど、それがそうでもない。箱下精算なしの場合、例えば残り1000点のラス目から12000アガって2着になったヤツがいたときに、箱下11000点分はトップの俺が損することになる。

 この店のルールだと、そういう取りっぱぐれがないのだ。
「もうちょっと打っていくか? 飲みに行くか?」
「じゃ、飲みに行きます。これをラス半にします」
「そこの『天狗』で先に1人でやってるから」
 もう一回サクッとトップ取って追いかけよう。俺はそう思って打ち始めた。


「何? ボヤージュじゃ物足りなくなってきたってこと?」
「紹介してもらって、気に入ってはいるんですけど、なんか、もうちょっと大きな勝負がしたいっていうか……」
 酔いが回った俺は浅間さんに本音を言ってしまった。
「高レートの麻雀打ちたいってこと?」
「ぶっちゃけ、そうです」
「紹介できるよ。てか、ボヤージュでやってるよ」
「本当ですか? 俺でも大丈夫ですか?」
「やってみる? 紹介しようか」
「はい、お願いします」
「とりあえず、もう1人メンツ探してよ」
「俺がですか?」
「そう。初回はと、ボヤージュのママと、児玉と、もう一人誰かおまえの知り合いでやろう」
「はい……」
「3人で組んでおまえをカモにする場じゃないってことだよ。メンツ決まったら日を調整しよう。時間帯は夜中にボヤージュを貸し切りにしてやるからな」
「わかりました。レート、どのくらいですか? いくら持って行けばいいですかね?」
「レートは、スタートは100円だ」
 100円? 普通のフリーレベルじゃないか。
「そんな不服そうな顔するなよ。だんだん上げていくんだ。あと、見せ金はいらない。どうせ勝つつもりなんだろ?」
「ええ、もちろん。でも……」
「勝つつもりなら手ぶらでいいんだよ。負けてから払い方を相談するんだ。内臓とかじゃないから安心しな」
 不安は残るけど、それがかえってワクワクする。
 
 その週末、リーグ戦初日の休憩時間に俺は同期の多羅(タラ)宏暉プロに声をかけてみた。俺より5歳くらい年下でそんなに親しいわけではないけど、何度かボヤージュで見かけたことがあるし、麻雀打ちとしては一番信頼できそうな気がする。
「ボヤージュのセットですか……」
「ルールとかは当日現地でって言われたんだけど、レートは100からで……」
「あ、じつは僕、何度かやったことあります」
「え? そうなの? 勝てた?」
「あ、はい」
 同じCリーグの多羅プロが勝てるなら俺も大丈夫な気がした。
「じゃ、頼めるかな?」
「いつでもいいですよ。あ、でも、一応確認なんですけど、児玉さんとコンビ打ちするわけじゃないですよね」
「違う違う。勝負は真剣勝負。俺が高いのを打ってみたいんだ。100スタートだけど……」
「あ、それは途中で上がるんですよ。僕が前に行った時は2000の祝儀5000まで上がりましたよ」
 え? 100スタートが2000?
「確か、見せ金はいらないんですよね」
「うん。負けてから払い方考えるって」
「全員が勝つつもりで鉄砲で来る場ってなんか、いいですよね」
 多羅プロがにっこり笑った。
「今日もそうだったけどな……」
 リーグ戦はぱっとしないスタートだけど、セットメンツが決まって、俺はホッとした。

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