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しみったれ【文・長村大】その20

 漫画原作者の来賀友志氏が、亡くなった。麻雀ファンであれば、名前を聞いたことのない人はいないだろう。
 おれは、個人的な付き合いはなかったといっていい。名前くらい知っていてくれたとは思いたいが、それだけである。
 だが、氏の作品━━おれにとっては「あぶれもん」や「麻雀蜃気楼」だ━━は、おれという人間を構成する一つの要素として、すでにおれ自身に組み込まれている、好むと好まざるとに関わらず。
 人に忘れ去られることがほんとうの死だというなら、氏が死ぬことはほとんど未来永劫ない。それほど強固な、偉大な足跡を、氏は残した。
 あの世も天国も地獄も、実在しやしない。
 実在はしないが、存在はする。そしてそれが存在するのは━━我々の側、つまりこの世だ。死後の世界は、生者のためにこそ、存在する。
 そして残された我々は、我々自身が死に絶えるその日まで、この世を生きていかねばならない。
 おれにとって生きるということは━━マズい飯食ったりマズい酒飲んだり、あるいはたまにおいしかったりして、そして━━麻雀を楽しむことだろう。
 そんなふうに、思った。
 お通夜にも告別式にも、行かなかった。

 麻雀マスターズ、というタイトル戦で、ベスト8まで勝ち残った。

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