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勝負師~episode6酔いどれ天使・滝沢和典【文・荒正義】

滝沢の麻雀は美しいが、酒の飲み方も綺麗だ。酒は静かに、淡々と飲む。
飲みながら、相手の話をちゃんと聞く。
しかし、人の陰口は言わない主義だ。
これは、下戸の寿人も同じ。
したがって、滝沢には麻雀プロ仲間から酒の誘いがよくかかる。
飲んでいる最中に、別の仲間からの誘いもよくあるのだ。これが滝沢の人気である。
その人気は、いたるところにある。
ある日、白川道・石田宏・私。ある社長が麻雀を打つことになった。
側に滝沢がいたので、観戦に来るように言った。
「白川・石田は勝ち組だ。奴らの麻雀をよく見ておけ。もう一人は負け組だから、どうでもいい」
「ハイ!」と云って、暇な滝沢は喜んで付いてきた。
勝負は半チャン12回戦である。

残念ながら、この日はその社長が2連勝のスタートだった。
しかし、この日は燃える闘魂の白川さんの追い上げが鋭く、すぐに挽回。
それに石田と私が続いた。
このとき滝沢は記録係だ。やることがないから、仕方がないのだ。
途中で中瀬ゆかりさんが来た。中瀬さんは白川さんの彼女である。
「後輩の滝沢です」と私が云った。
すると滝沢は、立ち上がりペコリと頭を下げた。
「あらま、新潮社の中瀬です」と、云って微笑んだ。
戦い済んで、打ち上げは焼肉だった。
石田「今日はあの社長、出来が良かったナ!」
荒「でも、結果は一人負けだよ。勝ち頭は白川さんだ」
中瀬「彼にもお小遣い上げなさいよ、帳面代金!」 
すると、白川さんは無造作に3万円を出した。
石田が2万。つられて私も2万テーブルに置いた。
このとき貧乏だった滝沢は、点数計算だけでこの日7万円も稼いだのである。
これは中瀬さんの一言が利いていた。彼女が滝沢を気に入った証である。
 
私も、暇なときはよく滝沢を酒に誘ったものだ。そこは、根津の私の行きつけの小料理屋である。
美味い肴とうまい酒。酒飲みの一番は、これである。しかし、酒の肴の一番は人である。
いい仲間と飲む酒は一番楽しいし美味いのだ。
その店でたらふく飲んで、仕上げはバーだった。ウィスキーはシングルモルトである。



そこで、麻雀の話になった。実は少し前、『麻雀グランプリ』で滝沢と当たったのである。
話はそれだった。
『麻雀グランプリ』は、プロ連盟の新設されたタイトルで、上位2名勝ち上がりのトーナメント戦である。
参加資格は、タイトルホルダーと前年度のポイント上位者の32名程度だ。
ベスト8なら、次が決勝戦だ。優勝は100万だから、滝沢も気合が入っていた。
4回戦までの成績は、私がほぼ当確。一人が大きく沈み圏外。
となると、もう一人は滝沢かB君の争いだった。5回の最終戦は、東場で満貫を決めた滝沢がトップ目で有利だった。
南2局はB君の親番。
このとき、私の7巡目の手がこうだった。

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