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ドキュメントM 金子正輝さん 67歳

金子正輝(かねこまさてる)さんが、競技麻雀の第一線に姿を見せなくなって約2年。最高位4回をはじめ、八翔位、名翔位、名人位連覇、王座2回など数々のタイトルを持ち、最高位戦のAリーガーとして活躍していた金子さんは今、どうしているのだろうか? 病気療養中の金子さんが一時帰宅されるタイミングでご自宅に伺い、お話を伺った。

褥瘡(じょくそう)の処置のために施設で暮らす日々

褥瘡  いわゆる「とこずれ」のこと。患者が長い間同じ体勢で寝たきり等になった場合、体とベッドとの接触局所で血行が不全となって、周辺組織に壊死を起こす。病変部は毎日洗浄し、薬を塗らなくてはいけない。

金子正輝さんが、急な病気でリーグ戦を休場されたことは知っていた。その病名が「大動脈解離」ということも人づてに聞いていた。

大動脈解離瘡(だいどうみゃくかいり)
大動脈の血管壁が裂け、血液の通り道が、本来のものとは別にもうひとつできた状態。体に激痛が走り、大動脈が破裂したり、多くの臓器に障害をもたらしたりする重大な合併症を引き起こし、命に関わる。

そして今回、金本編集帳から「普段は施設にいる金子さんが一時帰宅されるので取材に行きますよ」と言われた時、正直言ってお会いするのが怖かった。「牌流定石(ぱいりゅうじょうせき)」という独自のスタイルで圧倒的な強さを誇った麻雀プロの、弱弱しいお姿に直視することに戸惑いがあったのだ。
しかし、ご自宅のリビングルームに車いすで入って来られた金子さんを見て、ホッとした。とてもお元気そうで、明るかったからだ。

奥様が用意してくださったお茶やお菓子や果物に手を伸ばしながら、「何からお話ししましょうか」とニコニコ顔でおっしゃる金子さん。聞きたいことはたくさんあるが、まずは麻雀の第一線にいられなくなったほどのご病気について、いきさつを伺うことにした。

「心臓の手術を1回、褥瘡(じょくそう)の手術を5回して、今は心臓のほうは回復しています。次にお医者さんに見せるのは2年後でいいと言われました。そのくらい良くなってるんです。

今、施設に入っているのは褥瘡の処置のためです。下半身が麻痺してしまって、痛みを自分では感じないので同じ体勢でずっといたせいで壊死(えし・細胞が動かなくなった状態)してしまいました。
そこを毎日のように洗って薬を付けないといけないので、施設に入っています。月に2回、今日のように日帰りで帰宅するんですけど、そのときも埼玉医大のお医者さんが往診で処置をしてくれます。

最近は病院もよく気を付けていて、なかなか褥瘡にはさせないものなんですけど、僕の場合はずいぶん悪化してしまったようです。上半身はすごく元気なんですよ」

声にも張りがあり、変わらぬ笑顔。まずはお元気そうで一安心なのだが、一命を取りとめたときのお話を聞くと、それはまるで奇跡のようだった。

脚に激痛が走った日たまたま妻が家にいた

「2020年、3年前の6月23日のことです。
前日はいつものように、坂戸でやってる『ノックアウト』という雀荘で仕事をしていました。

従業員が足りなくて無理してましたね。
48連勤の後で最高位戦のAリーグに行ってボロ負けして、その後また53連勤してAリーグでボロ負けして……そんな生活でした。
夜中12時に店を閉めて、家に帰っていつものように2階の寝室で寝ました。
朝方一度起きて、妻に『背中が痛いから湿布を貼ってくれ』と言い、貼ってもらいました。湿布は、対局前とかにもよく貼ってもらうんです。だから別に変ったこととは思いませんでした」

その日のことを、奥様はこう振り返る。
「いつもは私が朝、店に出るんですよ。9時オープンの店なので8時過ぎには出かけます。でもその6月23日はたまたま曇りだったので『これは絶好の草むしり日和だ』と思いました。
だから他の従業員に連絡して、朝の仕事を任せて家の庭の草むしりをするつもりでした。朝方呼ばれて湿布を貼って、洗濯物を干した後で『どう?』と聞いたら『まだ痛い』と言われましたけど、普通でした。
さあ草むしりをしようかなと思ったら雨が降ってきて、これじゃあ草むしりはできないから録画してたまっていたドラマでも見ようと思ったら、ドタドタドタってすごい音がして、主人が下りて来たんです」

金子さんは足に激痛が走り、とにかく異変を知らせるために階段を駆け下りたという。そのとき以来、2階には一度も上がっていない。

金子さんの部屋の机は当時のまま

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