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実践:横紋筋肉腫 rhabdomyosarcoma

学生講義でも触れられることのある有名な肉腫ではあるものの、実際に遭遇する機会は稀な固形腫瘍であり、通常の軟部肉腫と異なり化学療法や放射線療法が優先されることもあって病理診断の重要性が特に高い腫瘍です。 

参照:小児がん診療ガイドライン2016年版 http://www.jsco-cpg.jp/childhood-cancer/guideline/#VII_cq11


疫学

小児の固形腫瘍では最も頻度が高く代表的な肉腫であり、わが国では小児期に年間50例ほどの発症があると推定される(2022年の登録集計では40例)。なお、米国では年間約350例が診断されている(Pediatr Blood Cancer 70(Suppl.6): e30556, 2023)。 胎児型では男児に多い傾向があるが(M:F=1.5/1)、そのほかの亜型では性差はない。組織亜型によって好発年齢や発生部位に特徴が見られ、胎児型は5歳以下で、頭頸部や後腹膜、泌尿生殖器(粘膜を含む)に多いが、胞巣型は10~25歳に好発し、四肢や頭頸部、傍脊柱、会陰部に多い。また、紡錘形細胞型/硬化型は小児から成人にかけて見られ、頭頸部や四肢、傍精巣領域に好発し、多形型はもっぱら高齢者(60歳以上)の四肢深部や体幹部に好発する。亜型による発生頻度としては、胎児型>胞巣型>多形型>紡錘形細胞/硬化型の順となるが、国や地域によって多少異なる。

分類について

病理関係者の間で汎用されているWHO腫瘍組織分類第5版では、横紋筋肉腫(RMS)は胎児型(embryonal RMS)、胞巣型(alveolar RMS)、紡錘形細胞型/硬化型(spindle cell/sclerosing RMS)、多形型(pleomorphic RMS)、外胚葉性間葉腫(ectomesenchymoma)の5つのタイプに分けられている。一方、小児科等の臨床現場では、College of American Pathologists(CAP)のプロトコルに従った分類がもっぱら使用されており、それでは上記のうちの多形型が除かれた4つのタイプでの記載となっていて、多形型に見られる様な大型の退形成性細胞(anaplastic cells)が認められた場合には、各組織亜型 'with anaplasia'という形で診断表記することになっている。なお、この場合の'anaplasia'とは、他の平均的な腫瘍細胞に比べて3倍以上の径のある大型で濃染性核を有した腫瘍細胞か、または異常核分裂像を示すものをいう。また、anaplasiaを示す細胞の有無は独立した予後因子ではないとする報告がある(Eur J Cancer 143: 127-133, 2021)。

組織学的所見

1)胎児型(embryonal RMS)
基本的には短紡錘形から類円形の細胞で、濃染性の核と好酸性細胞質を持つ筋に類似した異型細胞(横紋筋芽細胞 rhabdomyoblast)のびまん性・散在性増生からなる。
細胞には多様性が見られ、横紋構造をもち分化した大型細胞から小型の未熟な類円形細胞まで、種々の細胞が存在し(様々な分化・成熟段階にある細胞)、それらがオタマジャクシ様・クモ様などと形容されることもある。
背景は粘液腫状あるいは硬化した線維性基質からなる。
肉眼状粘膜にポリープ状の形態を示すbotryoid(ブドウ房様)typeでは、粘膜上皮下に腫瘍細胞が帯状に集積したcambium layer(形成層)が見られる。
稀に、軟骨などへの異所性分化や化学療法後での分化亢進現象が見られる事がある。

胎児型横紋筋肉腫の組織像(H-E染色)

2)胞巣型(alveolar RMS)
濃染性核と少量で時に球状の好酸性細胞質を有する未熟な類円形細胞が、しばしば線維血管性の隔壁構造を裏打ちするように配列して数珠状に連なると共に、あたかも腫瘍細胞の集団が線維血管性間質により取り囲まれたかの様にみられ、その構築が「胞巣状」と表現される。
腫瘍細胞同士の接合性が弱く、胞巣状構造の中心部では離開により生じた空間がしばしば形成され、その中に単核・多核の腫瘍細胞が浮遊して見られるが、時に空間形成に乏しくもっぱら充実性胞巣状構造のみから成る亜型(充実型 solid variant)もある。
横紋構造を示す細胞質を有する細胞はほとんど見られない。

胞巣型横紋筋肉腫の組織像(H-E染色) 挿入図:myogenin免疫染色

3)紡錘形細胞/硬化型(spindle cell/sclerosing RMS)
ほぼ均一な紡錘形腫瘍細胞が種々に交錯する束状の配列増殖を示す(平滑筋肉腫や線維肉腫を彷彿とさせる)。
より小型の類円形細胞が硝子様硬化性の間質を伴って索状・胞巣状に配列増殖するパターンを示すものは「硬化型」と表現され、紡錘形細胞の束状増殖部分と種々の程度に混在する。
近年存在が認識されている骨内横紋筋肉腫 intraosseous rhabdomyosarcoma はしばしばこの亜型の組織像を示す上に、上皮様腫瘍細胞も認められると報告されている (Am J Surg Pathol 43: 695-702, 2019)。

紡錘形細胞/硬化型の組織像(H-E染色) 挿入図:左)紡錘形細胞領域、右)硬化型領域

4)多形型(pleomorphic RMS)
その名が示すように単核・多核で幅広い好酸性細胞質を有する紡錘形から卵円形、多角形の多形細胞がより小型の腫瘍細胞と種々の程度に混在して増殖する。
多形細胞が特に多いものは未分化多形肉腫に近似する。
多形細胞を除くと上記の3つの亜型のいずれかに分類が可能な事が多いため、小児の場合には「多形型」という名称を用いるよりも、「各亜型 with anaplasia」という表現が好まれる。

多形型横紋筋肉腫の組織像(H-E染色)

5)外胚葉性間葉腫(ectomesenchymoma)
胎児型RMSを基本とし、種々の神経外胚葉成分(神経節細胞、神経節神経腫、神経芽腫等)の成分を伴った腫瘍。

免疫組織化学上の特徴

陽性:muscle specific actin (HHF35)、desmin、myoglobin、myogenin、MyoD1(クローンにより感度が若干異なる(MX049>5.8A/EP212)との報告がある、Ann Clin Lab Sci50: 412-416, 2020)
陽性のことあり:αSMA、S-100、PAX7、PFM.2(PAX3-FOXO1)、ALK、CD56、cytokeratin、neurofilament、CD99
その他:融合遺伝子(PAX3/7::FOXO1)を有する例でolig2陽性(Hum Pathol 91: 77-85, 2019)、FOXO1陽性(Histopathology 83: 49-56, 2023)、myogenin/AP2β/NOS-1/HMGA2のパネルが有用(fusion+: myogenin 3~4+&AP2β/NOS-1>HMGA2、Am J Surg Pathol 38; 654-659, 2014)

分子遺伝学的特徴

胎児型:H/K/N-RASの変異、NF1・BCOR・TP53の点突然変異、11p15.5(IGF2/H19/CDKN1C)のLOH
胞巣型:PAX3/PAX7::FOXO1、2p24・12q13-14の増幅
紡錘形細胞/硬化型:VGLL2/SRF/TEAD1/MEIS1::NCOA2、EWSR1/FUS::TFCP2、VGLL2::CITED2、MYOD1の点突然変異
多形型:全染色体領域における増幅および染色体の数的かつ非均衡型構造異常
* 融合遺伝子を伴わないRMSでは、N/K/H-RAS・TP53・MYOD1・PIK3CA・FGFR4の点突然変異を有する傾向がある。
** MYOD1の点突然変異が認められる例は認められない例よりも概して予後が不良である。
*** 胎児型と胞巣型の組織像を混在する例では、PAX3/7::FOXO1の融合遺伝子が認められた場合に胞巣型と判断される。

その他

類上皮型 epithelioid RMS: 最も稀な亜型。男>女、高齢者に多い。四肢・頭頸部に好発し、表在性(皮膚)の場合もある。明瞭な細胞境界を示す豊富な好酸性細胞質と水胞状で濃染性の核を有する腫瘍細胞がシート状に配列増殖し、一見低分化癌や悪性黒色腫に類似する。高頻度の核分裂像と顕著な壊死を伴うが、多形性は目立たず多形型RMSと異なる。深好酸性細胞質を有するオタマジャクシ様・クモ様の横紋筋芽細胞に乏しい。免疫染色の特徴は他の亜型と同様。皮膚発生のものはNF1遺伝子変異やTERTプロモーター変異あり。予後は極めて不良。(Am J Surg Pathol 35: 1523-1530, 2011, Genes Chromosomes Cancer 62: 678-684, 2023)






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