辻褄合わせ
突然の土砂降りの雨
傘を持っていなかった私は、突然降りだした雨に空を見上げる。
天気予報で今日は晴れだと言っていたのに。朝に見たニュースのお天気お姉さんに苛立ちながら彼の部屋へと急ぐ
カンカンカンカン
古びた階段の音が今日は何故か耳障りに感じる
ガチャン
静かに開けるつもりが、思ったよりも音を立ててしまって顔をしかめる
肌にくっ付いた服が気持ち悪い
ブーツを脱ぐ為にしゃがむと
床にポタポタと雫が垂れる
靴下を脱いで、玄関横の脱衣所までつま先立ちでそろりそろりと歩く
洗濯機に靴下、セーター、ジーンズ、キャミソール、パンツ、どんどん突っ込んでいく
そのまま素っ裸でリビングを突っ切り、干してあった彼のシャツを一枚上から羽織る
いくら小柄な彼だと言っても男の人だから私が着るとぶかぶかなのが嬉しい
彼のミルクのような匂いがシャツからしてクンクンと犬のように嗅ぐ
大好きな彼の匂い
打ちっぱなしのコンクリートの部屋にぽつんと置いてある年季の入った皮の伸びたソファーには、脱ぎっぱなしの上着やシャツがそのまんま。
そしてその奥に見えるベッドには膨らんだ塊が一つ
一定の速度で膨らみ、沈むその塊を見て口元が自然とゆるむ
軋む床を静かに歩くと
机に無造作にたくさん置かれた色鉛筆と紙
その一枚を手にとる
彼の描く世界はいつも汚れてなくて純粋で真っ直ぐ
彼はきっと才能に溢れている、凡人じゃ理解出来ないほど、頭の中が才能でいっぱいなんだと思う。
いつもは部屋の吹き抜けの天井窓から差し込む光に彼の絵を透かすのが好きだけど、今日は見上げても真っ暗な空しか見えない
ギシッ
「またそんな格好してる」
後ろから掠れた声と共にぎゅうっと突然抱きしめられる。ミルクの香りが鼻腔をくすぐる。
「起きてたの?」
「刺激強い」
「起きてたの?って聞いたんだけど」
「そんな格好はダメだって前にも言ったよね、学習能力ないの?」
「答えになってない!それに雨男なギョンスがいけないの」
「僕?」
「いつもギョンスが寝てる時は雨だもん」
「僕は晴れ男だけど」
「自称だね」
納得がいかないらしい彼は、納得いかないし証拠がないよ、と私の首元に顔をすり寄せながら私のシャツのボタンをゆっくりと外して行く
「身体冷た」
「今更?」
「風邪引くから早く風呂に入ろう」
私の話なんて聞いているのか聞いてないのか、そもそも無口な彼はあまり言葉を発さない。だから私が一方的におしゃべりする。でもちゃんと彼は私の話に耳を傾けてくれてるのは知ってる。そしてその答えがだいぶ時差で返って来たりするから笑っちゃう。
そんな事を考えてると、いつのまにかボタンを下まで外しきった彼は、自分の着ていたTシャツも一気に脱いだ。
彼は小柄だから着痩せしてみえるが、実はそれなりに身体を鍛えているらしい。薄っすら線の入る色白の身体は見た目とそぐわず艶かしい。
そのしなやかな身体に見惚れていると、ゆるりと首をかしげながら
「へ・ん・た・い」
ニヤリと笑うと、その印象的な攻めな瞳を細める
どっちが変態なんだ!とツッコミたいところだけど、彼に言ったところで言いくるめられるに決まってる
何も言い返せないで突っ立ってると、スウェットの紐をゆるくしてどんどんズボンが下がりながら歩くギョンスがスッと私を持ち上げる
「わたし足あるんだけど」
「雨だから仕方ないと思う」
「う〜ん理由になってないね、」
鼻歌まで歌いだしたギョンスは私の言葉は完全無視でお風呂場へと進んで行く。今日はご機嫌みたいだ。
「うわ、雨降ってる」
「今更だねギョンスさん」
「じゃあ風呂で今から良いことしよっか。」
やっぱり彼は私の話聞いてない。
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