ユメグラ二次創作短編 リナ・リア ノ巻#1

あー、もしもし、声入ってる?どうかな?
良さそう?うん、ありがとう。

僕はこの研究所『ヒューマン・レヴォ』の研究主任をしています。

名前?いいじゃないか、そんなことは。これを見ている君が誰なのか僕は知らない。
けれど君が僕を知っているのは不公平じゃない?
だからいつか君の事も知れたらいいな。

今から話すのは僕が関わったプロジェクトのこと。どれくらい前かは言えないけど、今僕が君の隣に居たら文明の進み具合に驚くだろうね。

そのプロジェクトは「進化した人類」をテーマに、一般的な生殖活動を伴わない手段で自我を持つ“ヒト“を作ることを目的としていたんだ。
僕は無事にそれを成功に導きました。

…ちょっと、笑わないでおくれよ〜。僕なりに頑張ったんだって。君だって…

ごめん、話が逸れてしまったね。
僕の手記を読み上げつつだから説明っぽくなるけど、どうか大目に見て欲しい。
じゃあ早速始めていこう。

春で花見もこれからという頃の雨の日。
僕がラボのエントランスで露払いをしていると、所長に声をかけられた。

「やあ、今日はあいにくだね。だが良い知らせがある。着替えたら第三会議室に来てくれ」

所長の髭もちょっとしんなりしてますね。と返す前に一通りを聞いてしまった。
でも、良い知らせと言われたらそれは間違いない。なんといっても10年来の先輩の言葉だからね。

僕はロッカールームでロゴ入りの白衣に着替えると、そのままスケッチブックを抱えて第三会議室に向かった。

扉をカードキーで開けると、もう4人来ていた。僕と所長で席が埋まる。
ビリケツの僕を皆優しく歓迎してれた。

みんな、今日は良い知らせらしいね。僕は楽しみで仕方ないよ。

そう言って皆の顔を見てから席についた。
隣は真面目な「スミオ・ヤナギ」向かいの2人は天才肌の「ソウイチ・カガミ」と紅一点「リアナ・セキラン」、スミオの隣がリーダー役「タツロウ・ハザクラ」だ。

僕がひと息つくとタツロウが話を切り出した。
「お前は最近元気なかったからな、今日の知らせでまた手腕が戻ってくるとなると俺も楽しみだよ」

「タツロウ、あんまりそういうの言わない方が…」
スミオが間に入ってくる。

「そうよ、今から空気悪くしてどうするの」
腕を組みながらリアナも続く。

リアナが肘でソウイチをつつく。
ソウイチはやれやれ…という古典的なリアクションで返して、無言を貫き通した。

「みんな、盛り上がってるところ悪いけどそろそろいいかな」
所長が二回手を打って注目を集めた。いよいよ来る知らせに僕の背筋は自然と伸びた。

「この研究所でも特に優秀な君達を集めたのは他でもない、新しいプロジェクトを始めたくてね。これを見てくれ」
所長は備え付けの端末を操作して机に映像を出した。
「進化した人類を創造する、NEXIM(ネキシム)プロジェクトだ。物質培養を行なって有機由来、無機由来関係なく新たなヒト型生命体を作るんだ」
所長は更に続ける。
「先に言っておくとこのプロジェクトに勝算は無い。2年ほど前、別のグループがキメラを作ろうとしたが全て失敗に終わっているからだ。その研究は生き物から採取した遺伝子情報等を使って行われた。
今回は無機物も使用するし、生物の卵子から育てることもしない。錬金術のような途方もないものだと思ってくれ」
所長の言葉で、浮き足立っていた僕達の空気は一気に引き締まった。

「とはいえガッツのある君達だ、困難には慣れっこだろう。世間の嘲笑を成果で吹き飛ばしてくれることを期待しているよ」
所長はニヤリと口角を上げて僕達のタブレットにプロジェクトの詳細を投げた。
それを読み上げながら概要を展開する。
「まず育成開始までに2つのフェイズを行う。肉体培養と精神定着フェイズだ。
肉体培養は特別な培養機を使用する。8基しかないのでヒト遺伝子を入れるタイプを2、人間外の有機由来と無機由来をそれぞれ3ずつだ。歩行と簡単な会話が可能と想定される肉体年齢まで培養する。
肉体培養に成功したら精神定着フェイズへ移行。自我反応が見られるまで音楽等の外部刺激を与えて経過観察する。6ヶ月を期限として、それ以降は定着見込み無しと判断する」
僕達は静かに所長の話に聞き入った。
「その後の育成計画は追って話し合おう、まずは生命を誕生させること。そして知能と運動レベルを見てからだ。
ここまでで何か質問は?」

「はい」
真っ先に手を挙げたのは僕だ。
「途中で自我に目覚めた場合はどうします?それから…」
僕に続いてみんな思い思いに質問をぶつけた。はっきりは覚えてないけど生死や倫理観に関係するものが多かったはず。
最初の質問の答えは「肉体培養が完了するまでは魂が入ってもそのまま」ということだった。

「質問はもう無いね?では今日のミーティングはここまで。プロジェクト開始は1週間後、それまでに培養素材を調達しておいてくれ。解散」
所長はまた二回手を打って僕達に退出を促す。各自話し合いながら素材を見繕っている様子だった。
荷物をまとめていると、誰がどのタイプを担当するかの話し合いが終わっていた。
スミオとタツロウは有機由来、ソウイチは無機由来、僕とリアナが人間ベースだ。
別担当の3人と分かれて、リアナと2人で帰りながら素材について話し合った。

「ねえ、素材の候補ってある…?」
リアナに意見を求められたのでこう返答した。
「感情豊かで成長も早い…とか色々考えると女性の方が良いかもね」
それを聞いたリアナはハッとした様子で
「言われてみればそれが適任かも。遺伝子だけ採るなら私の髪の毛を少し入れるだけで良さそうだわ」
と答えて、その真紅の前髪を手で引っ張って眺めていた。
「君の遺伝子を継いで好奇心旺盛な良い子にきっと育つよ」
僕はリアナの髪の毛に一言添えて、寮に帰って1週間いろいろ考えて過ごした。

1週間後

僕達は培養機のある研究室に集合した。
スミオとタツロウ、ソウイチは大きな荷物を抱えて入ってきた。
「おや、随分と身軽じゃないかお二人さん」
タツロウがよっこらせと、荷物を置きながら僕達に話しかける。
「人間ベースの素材にはリアナの髪の毛を使わせてもらうことにしたよ」
「そうか、俺も良いアイデアだと思う。突飛なものは俺達とかソウイチがやればいい。ベーシックな試験も時には必要だからな」
タツロウはそう答えて汗を拭った。

各々荷物を下ろしていると、所長が入ってきた。
「みんな揃ったか、早速肉体培養を始めよう。それぞれ持ってきた物を見せてもらおうか」
所長がタツロウに促す。
「俺とスミオは、植物、動物、化石…古代生物の3つにしました。本当は虫とかも試したかったけど…分類を大きめに取ってこの3つです」
「古代生物か…どんな結果になるか楽しみだね。では次」

指名されたソウイチが答える。
「私は、プラスチック、鉄、金の3つです。入手しやすく加工も容易な2つと、安定していて電気も通しやすい金を選定しました」
「プラスチックは今後伸びていきそうな素材だし、鉄や金もロマンあるね。楽しみだ。最後は?」

向けられた顔にリアナはうなずく。
「私達はこの紅の髪を使用します。誕生する命に最も近い人物がルーツであればきっと安心するかと思いまして」
「何かあった時に迅速に対応できるのは他にない優位さだと思うよ。産まれてくる命を研究員としてではなく、肉親として迎えてやってほしい」

全員の話を聞いて所長は僕達に向き直った。
「よし、準備は整ったね。各自培養機に肉体ベースと持ってきた素材を入れてくれ」
素材とは別に、3歳児程度の材料を入れる。主にタンパク質や脂質だ。水は培養機になみなみと入っている。
素材の分量など、分かるわけがない。僕達は思い思いに祈りながら材料を機械に入れた。
「無事に産まれてきてね…」
リアナは培養機の一方に前髪を、もう一方に後ろ髪をそれぞれ数本入れ、静かに手を合わせた。


「よし、作業は終わったね。電源を入れよう」
所長は僕達にスイッチを入れるよう指示した。命には真摯に向き合え。そういう意味を込めて。
スイッチが入ると培養機は産声を上げた。
3歳程度とは言うが、培養期間は3ヶ月の見積もりである。機械が早い成長を促すのだ。
その後、軽いミーティングをして解散となった。
次の日からは交代で経過観察をして、レポートにまとめる。よくある試験の風景だ。
培養されている検体は僕達のものが01,02、タツロウ達のが03,04,05、ソウイチのものが最後に3つ続く。

1ヶ月目は順調だった。それぞれの検体は順調に成長して、外観に特徴も出てきた。
植物の03は葉緑体の影響で体が緑がかっている、金属系の07,08は関節部以外は装甲のように周りを金属が覆っていてまるでロボットのようだった。
ひと安心したムードの中、スミオが提案を持ちかける。
「今のところ無事に8体成長してるし、そろそろ番号じゃなくて名前をつけてあげない?育成開始してからも番号ってのは寂しいじゃないか」
そう言って既に考えてある名前の候補を書いたノートを差し出してきた。
それにリアナは険しい顔で返す。
「スミオ、いい提案だと思うけどそれはまだ早い。名前を付けると情が移る。もしお別れになった時に辛くなるだけよ」
彼女なりの優しさだった。スミオは少し納得がいかないような顔でノートを引っ込めた。

僕達はリアナの言葉の中身を2ヶ月目に思い知ることになる。
植物の03と動物の04は肺とその他の呼吸器官の成長をお互いが邪魔して成熟せず、プラスチックの06と金の08も組織成長がうまくいかず培養失敗となってしまった。
培養失敗となった検体は所長の意向で研究所の庭に埋めることとなった。
覚悟はしていたがいざ目の当たりにすると言葉も出ない。
タツロウとスミオはリアナの言葉に納得しきれず検体に名前を付けていたようで、埋葬の際にこっそり呼びかけていた。

3ヶ月目、みんな検体達の成長をドキドキしながら見守った。スタートラインに立てるように…、しかし祈ることだけしか叶わなかった。
祈りが通じたか、残った検体は全員想定されていた体のサイズまで成長しきった。
僕達は喜びを分かち合った。そしてリアナが再びみんなに提案をする。
「ここからはこの子達に呼びかけたりする事になるから名前を付けてあげましょう。スミオ、05ちゃんの可愛い名前あるんでしょ?教えて」
スミオは指名を受けてとても喜んだ様子でノートを開いた。タツロウと話し合ったであろう名前を読み上げる。
「05は“ベルタン“って名前にした。検査した時、瞳が綺麗な琥珀色だったから」
「可愛らしい名前ね、ソウイチの方の07ちゃんは?」
「私はまだ決めていない、数日中には決めてあげたいところだね。そっちはどうなんだ?」

01,02の名前…考えてなかったな…。と僕が返答に困っているとリアナが口を開いた。
「01は私の前髪と私の名前から取って“フロ・リアナ”、02は後ろ髪だから“リアナ・リア”にしたわ。私の娘みたいなものだし、ちょうどいいかと思って」
考えがあったのには驚いたが、納得がいく内容だった。女の子らしく、可愛い名前だとも思えた。
リアナの話にスミオが乗ってくる。
「リアナそのままだと区別がつきにくいから間のアを取って“フロ・リナ”と“リナ・リア”というのはどうだろう?フルネームというより愛称という感じで呼びやすいし」
「その方がいいかもね、ありがとうスミオ。じゃあ01は“フロ・リナ”、02は“リナ・リア”にするわ」
アイデアを受けてもらえたスミオはとても嬉しそうにノートに名前を書いていた。

フロ・リナとリナ・リア、それにベルタンとまだ名前のない検体07。
後はこの4人の自我が定着するだけだ。
そのために僕達はこの子達に色んなことを語りかけていく事になる。


……っと、そろそろ容量いっぱいかい?結構話したもんね。
僕も喉が渇いたよ、飲み物取ってくるけど君はいつものコーヒーでいい? わかった。

じゃあ取ってくるからその間にテープを交換しておいてくれないか、よろしく頼むよ。

よし、一旦おしまい!次のテープは手元にある?君も休憩しながら見てくれたまえよ、先は長いからね。

ではまた〜


テープはここで終わっている。

次のテープを見る事にしよう…。

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