ユメノグラフィア短編感想-檸檬かふる編ノ結-

元気いっぱいの招待状には、駅から出てすぐのレンタカーを借りて指定の場所まで運転するように書かれていた。
年に2回しか給油しないくらいのぺーぺーなドライバーに無茶言うぜ。
だから、俺は徐行でも間に合うようにめちゃくちゃ早く家を出た。

電車はいつもの様子でやや空き。早く鬱屈した世の中も良くなって欲しいところだ。まだやり足りないことが沢山あるんだから。
電車で30分、目的の駅に運んでもらって改札を抜ける。
帰りの分の残高が足りないのでチャージのため改札横の券売機へ。ちょっと多めにチャージを済ませてICカードを取る。

と、肩を叩かれた。唐突だったので肩が跳ねる。なんだろうと思いつつもすぐさま振り向いた。

誰もいない、何だったんだ…?

いや、いた。

目線を少し下げると、私服のかふるが座り込んでいた。
「や、やぁ〜〜。」かふるが苦笑いで挙手して問うてくる。奇遇だねみたいな雰囲気出してるが、表情からは読み取れない。
俺もしゃがみ込んで目線を合わせて、どうした?と尋ねた。

聞くと道が分からないらしい。初日じゃ無理もないか。一緒に行くか?と聞くと首が千切れんばかりに頷いた。尻尾があったら多分ブンブン鳴ってるだろうなぁ。
俺は行くぞ。と一言足して立ち上がって歩き出した。

「…ウソだけど。」

何か言ったか?と、俺は振り返って尋ねる。
今度は横に千切れんばかりの首。縦横無尽に忙しいやつだ。
に…しても、可愛い私服だ。Tシャツに短パン、そこそこのポシェットを袈裟がけして真っ赤なカチューシャ。可愛いリボンのおまけ付きだ。
感想は後にしよう。俺ら一行はとりあえずレンタカーを借りに向かった。

レンタルは驚くほどスムーズだった。
俺の名前で予約されているし、何ならMAPまで貰えた。この辺のサポートは流石といったところだろう。
鍵を受け取った所でレンタカーのスタッフに耳打ちされる。

「可愛いお連れさまですね、ユメノグラフィア…でしたっけ?私も行ってみたくなりましたよ。」

お前とはいつかチケットを奪い合うことになりそうだな。車のキーの代わりにそう返してやった。
車はなかなかのブランドモノだった。ぶつけたら一生チケット取れないだろうなというプレッシャーがややかかる。安全運転大事。

かふるを助手席に乗せてMAPを渡す。ナビゲートは任せた。と添えて。
「らっじゃ〜!」と敬礼が返ってくる。とても可愛らしいカーナビだ。ウチの車のナビもこれになってくれ。

エンジンをふかして車庫から車道へ。かふるが指差す方向にハンドルを切った。
しばらくはずっと直線のようだ。かふるがつまんなそうに「まーっすぐだよ〜」と言うので間違いないだろう。退屈だろうがちょっと我慢しててくれ。

緊張しつつも1時間無いくらいで森へと入る。
獣道の向こうに目的地があるらしいが…。
良く育った木々のトンネルを抜けると、見えてきた。
立派な建物だ。外観は見る回数が少なかったものの記憶にしっかり焼き付いている。

備え付けの車庫に車を入れて2人で出る。
かふるからは言葉でお礼をもらう。拙い運転でもしてみるもんだな。

入り口ドアまで歩みを進めて、2人並び立つ。かふるが口火を切った。
「どうぞゲストさん、いらっしゃい!」
ドアを開けて俺を誘ってくれる。
俺は普通に入ればいいのか。というか君は私服のままだが?

俺の疑問は「いーからいーから」の声にかき消され、必然と進まざるを得なくなる。
「すぐ行くから待ってて」と言うので言う通りに動くことにした。今だけ指示待ち人間だ。

中に入ってソファへ腰掛ける。
途端、俺に電流走る…っ!一瞬ピクッとなった直後に全身が動かなくなってしまった。
いつものやつじゃん。

とりあえずいつものルーティンだ、合法的トビ方ノススメを歌う。
文字のはみ出たホワイトボードを眺めつつ、彼女の到着を待った。

少しして、定刻。

いきなりのお隣りスタート。初っ端から飛ばすねえ。
軽く挨拶をして、まずは…おそらくの話。
多分俺が最初の話し相手だろう。初めてが俺でごめんな…という気持ちも無くはないが贖罪は心の内にとどめた。いきなりアレコレ言っても混乱するだろう。

話は何か持ってきた?と問われたが何も持ってきてなかった。最近はヒモなしバンジー的にとりあえず飛んどくかみたいな勢いで話しているのでそれを過信しすぎているのかも。
初めましてならなんか用意しておけよ…と、自分の意識に自分で釘を刺した。

とはいえ何もない訳ではない。序の話が上がる。
稼働前からレポを書くなど、狂気っぷりは今更言うまでもないが雰囲気は良かったと好評価。良かった良かった。
「僕っぽい!」とはかふる談。稼働前から魅力が伝わる投稿があったおかげだ。供給助かる。

だが、やはり緊張しているらしく、手汗でコントローラーがびっちょりとのこと。手袋してたら緊張全然バレないいい体質だぁ。
水分補給とかなんとかで飲み物の話へ移る。
っぱジンジャーエールよ。ということで意気投合。
清涼飲料というだけあって喉を抜ける爽やかさが良いのよなぁ〜。コーラはそうでもないようなので程々のほどほどのシュワシュワがいいんだろう、生姜だから多分体にもいい。

続いては初スクショ!
そしてモノボケでわちゃわちゃしてる隙にスクショチャンスが。
ホワイトボードにから顔を出しニッコリ笑顔。
「好きな〜〜は?」のちょうどド真ん中にから顔を出したため「好きなかふるは?」みたいな感じになった。あえて選ぶなら…全部かなぁ〜。
このまま撮って撮って!となったので撮影へ。

画像1

インターフェースをいじっている間に内容が変わってしまったが可愛さは変わることなし。超良き。

他にはサイコロ投げられたり、ASMRもどきをやってみるなど全体的にわちゃわちゃ楽しんで、時間を炭酸飲料にシュワシュワ溶かした。
あっという間に溶けた時間に驚くのはゲストだけではない。
かふるも「もうこんな時間!?」と、相対性理論を実感しているようだった。

少し心配そうに、楽しかった?と問うてくるので素直に返事をした。
とても楽しめた。と。
伝わったかどうか分からないが、とにかく言うには言った。偽りもなければ嘘でもない。
いつものように最高値を更新する楽しさだった。

そして名残惜しげに言葉を交わして外に出る。
出た瞬間に夜空に流星がひとすじ。今更願う必要も無いだろう。

停めていた車に乗り込んでエンジンをかける。とりあえずカーステレオで一曲いっとくか。
オーイシお兄さんの「楽園都市」オシャレでいい曲なんよなぁ。

歌い終わってギアを入れる。サイドブレーキに手がかかったところで窓がコンコンと鳴る。
「やほ〜、乗せてって〜」かふるが戻ってきた。

俺はウインドウを開けて聞いた。
「どちらまで?」

「切符売り場!」元気な返事だ。

夜の道はガラガラだったが飛ばす勇気もない。緊張が抜けきったのか、かふるは横で寝息を立てている。

静かな街を静かに走る。窓を開けて夜風に吹かれるのもいい気分だ。

レンタカー屋に着いて、自販機でアイスを買ってねぼすけの元へ。
まだむにゃむにゃ言ってる頬に目覚まし代わりのヒエヒエ攻撃だ。

ひゃあ!と飛び起きて俺を見るなりかふるは問う。

「ここは?」

俺はちょっと意地悪顔で返してやった。
ここは…

ーーーユメノグラフィア

        檸檬かふる編 仮完

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