ユメグラワンドロ企画-お題:お嬢様-
「アオ、聞こえる?そっちはどう」
「少しうるさいくらいかな。聞こえてるよ」
首に巻いたネックフォンからカミ姉の声が脳へ伝う。
ここは空を知らない地下の世界。どこまでも天井があって、太陽は無い。
そして、少しジメジメしている。
私とカミ姉はそんな陰気な場所で石炭を掘って生活をしている。
親はおらず、カミ姉とも実の姉妹ではない。だけどそれを嘆いてもおなかが減るだけ。
今日の午後6時まではツルハシを振り続けなければならないのだ。
現在午後2時を少し過ぎたところ。おなかも膨れてきてまぶたが重くなってくる頃だ。
「カミ姉、なんかこの辺りの岩場変じゃない?他と手ごたえが違うような・・・」
ネックフォンから聞こえてくる採掘の音も少し違うように感じられた。
「そうね、この辺りもずいぶん掘ったし、もしかしたら”地空”が近いのかも」
地空とは、地下の奥の奥の奥にあると言われている空のことだ。何もない、開けた空間のことらしい。
ただ、こことは違って青白い光でいっぱいだそうだ。石炭掘りだったカミ姉のお母さんがよく話してくれてた
らしく、そっくりそのまま私が聞かされていた伝承だった。
「いやさすがにそれは無いよ・・・だってここより深いところなんていくらでもあるじゃない」
カミ姉はこの話に執着しがちだったが、私はあまり信じていなかった。多分そう。誰だってそう。
しかし、カミ姉の言い分にも一理あった。色んな岩場を掘ってきたがそのどれにも当たらない手ごたえだった。
「掘っていればそのうち何か出てくるでしょ。さあ、手を休めない」
雑談をしていても手は休めない、私たちの意地と誓いだ。
ガツン
今まで少し柔らかった岩にツルハシがざっくりと刺さった。
「え・・・、んん?」
引っ張ろうとしてもどうにもならない。先端しか刺さっていないが、何かに吸い付くような、こちらを引っ張るような
強さで刺さっている。
「アオ、どうしたの?変な声出して」
「だ、出してない!それよりツルハシが抜けなくなっちゃって・・・」
カミ姉との話に夢中になってツルハシから手が離れてしまっていた。すると、先ほどまで強固に刺さっていたツルハシが
私の足元に力なく抜け落ちた。
「あっ、抜けた・・・ん?」
ツルハシが作った小さな穴から緑の光が漏れ出している。私はツルハシを使って周りの岩をどけて中身を見ようとした。
光の正体は手のひらサイズの鍵だった。なぜここに鍵が埋まっているのか?そんなことを考えている時だった。
「アオ!こっちもツルハシが刺さっちゃった!すぐ抜いたけど穴の奥が光ってて・・・なんだろうこれ」
「カミ姉、すぐそっちに行くから待ってて。私のところからは鍵が出てきたの」
カミ姉と話を続けつつ彼女の元へ向かう。私の時と違って光の色は白だったらしい。
「カミ姉お待たせ!穴の中見せて!」
作られた穴の中は何もなかった。いや、真っ白で何も見えないようにも思えた。
私はとっさに握っていた手を開く。鍵はさっきよりももっと強く輝いていた。
「それ、差し込むんじゃないの?」
鍵を見ていると、どこからか声が聞こえてくる。
(扉を開けて・・・ワタシを救い出して・・・カミ・・・アオ・・・)
女の人の声だ。カミ姉を見ても、ただ黙って睨み返された。
「そうみたい。差し込んでみるよ、この鍵」
私はゆっくりと穴に鍵を差し込んで、ひねった。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
地鳴りと共に目の前の岩だけでなく、地面も崩れる。崩れた先に見えたのは、とてつもなく広い青の空間だった。
「キャー!なにこれ!!」
カミ姉も私も見えない地面に落下し続けていた。高所から落ちた時の恐怖と、未知の体験にひたすら叫ぶしかなかった。
もうだめだと思い、恐怖に視界を閉じていると急に落下が止まる。私たちは何かに捕まれているようで、それが分かって
恐る恐る目を開けた。
≪ワタシは ジョーステイツ を護る”戦闘貴機”グラナト・フロイライン第一嬢 シャルロッテ と申します。
あなたは上の壁を破って降りてこられた オジョーサマ ですね。さあ、ワタシに乗ってください。あなたは選ばれた
高貴なるお方なのですから≫
き、機械が私に話しかけてくる・・・しかも、このシャルロッテを私は《カワイイ》と思ってしまった。
地下では滅多に見られないドレスを着ているような外見、頭には装飾が細かい帽子に鉄の羽が刺さっている。
見とれてついボーっとしていると、強い風と共に爆音が響く。
「アオ!なんだかよくわからないけどアタシたちをキズモノにするような奴らじゃないらしい。アオも乗ってみな!」
すぐ横を飛んでいる赤い機械はカミ姉が乗っているらしい。右手には細身の剣、左手にはマスケット銃が握られていた。
どれも人間サイズからするとすさまじくデカい。
≪さあアオ ワタシに搭嬢して。敵が迫ってきています≫
何が何だかわからないまま促される。機械の胸部が開いて、イタリアモダン調の椅子に腰かける。
座ると同時に操作レバーが出てくる。胸部のハッチも閉まって、暗くなった嬢内が透き通っていく。
「外が見える・・・?」
≪お帰りなさいませ、オジョーサマ。可能な限りワタシが戦闘を補助しますのでよろしくお願いいたします。≫
私はシャルロットの案内に従って操作レバーを握った。
「よくわかんないけど、いくよシャルロッテ!」
私の合図でシャルロッテは敵へと向かっていく。
「ハイヒール・キーーーーック!!」
突撃の勢いそのままに突き出した鋭利なヒールが敵を貫く。これで残りは4。
「ローリング・サーベル!」
シャルロッテの頭部から綺麗に伸びる縦ロールの穴から剣を取り出す。
切れ味は抜群で、二振りで敵を2機切り裂いた。
「シャルロッテ、強い・・・いけるよ!」
≪当然です、オジョーサマの前でワタシの敗北は許されておりません。さあ残りも倒してしまいましょう。≫
そうこう話している間に、カミ姉の赤い子が1機撃墜していた。
「これでおしまい!ツイン・ローリング・バスタァーーーーーー!!」
自慢の縦ロールが敵を捕捉し、必殺ビームで跡形もなく消し飛ばした。
「やるじゃんアオ!アタシのスカーレット・ドールも3機落としたよ」
カミ姉の機械はスカーレット・ドールと言うらしい。よく見るとシャルロッテのお姉さんのような優しい印象を受けた。
≪アオ、今の敵は”貴帝軍”の第三師団のようです。≫
「何それ」
≪ジョーステイツ、この連合国の1部地域を支配している貴族の軍隊です。連合国を統一しようとして侵略行動をし続けているのです。
ワタシたちは”貴帝軍”から連合国の治安を護るために組織された戦闘貴機部隊です。この先にワタシたちの補給基地があるので
向かいましょう、それからまた詳しい話をします。≫
「そうなんだ、よくわからないけど他のやつらをぶっ飛ばせばいいのね」
≪オジョーサマ、ぶっ飛ばすとは少々おてんばでは・・・ 基地に着くまでコチラをお飲みになっておくつろぎください。≫
戦闘レバーが引っ込み、代わりにミニテーブルと紅茶をマカロンが出てくる。
「ありがとうシャルロッテ。何もかもよくわからないけど、これからもよろしくね」
ワタシは紅茶を一口飲んで、慣れない味に苦笑いしつつもシャルロッテに投げかけた。
≪ハイ 戦いはこれからです。 よろしくお願いします、オジョーサマ≫
眼下に広がる青白い空間に、私の心は晴れていくのであった。
-1嬢- オワリ
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