ユメグラ二次創作短編 鳩岡小恋&ころぼしまう ノ巻

「ねえ、彗星って何色?」
幼なじみの凛の問いに、僕は少し困った顔を見せた。
「急にどうしたの」
最近、朝イチのインタビューが続いている。
僕が2年になって天文部に入ってからだ。一緒に帰ることが少なくなって退屈してるんだろう。
「昨日、金ピカの流れ星を見たの。私、あまり星空を見ないからあんな色だったっけ…?って思って」

「金色の流れ星?それは不思議だね。流れ星は大気摩擦で赤っぽかったり、彗星は青白いことが多いんだ。天文部の本とか写真でも見たことないなあ」
「そうなの?じゃあ、もしかしたら大発見かも!『帰宅部、新しい彗星を観測か!?』って校内新聞に載っちゃうかもね〜」
凛は僕が分からないことが嬉しそうだった。
事実興味を引かれたし、放課後に部室へ行くのが楽しみで仕方がない。
「僕が知らないだけかもよ?天文部の先輩達にも聞いてみるし、帰ったらPCで調べてみる。でも、それでも分からなかったら大発見かもね」
僕の精一杯の強がりは凛のVサインにあっけなく砕かれた。

インタビューが終わって朝の読書の時間。
部室から借りてきた星の図鑑を開いて昨日の続きを読む。先生は事前に言いくるめておいた。
いつか自分の名前もここに載ったらなぁ…なんて希望を膨らませながらページをめくる。
数ページいったところでメモ書きがひらりと落ちてきた。ページの間に挟まっていたらしい。
手にとってみると、字が印刷されていた。どうやら何年か前の先輩が残していったものらしい。

“親愛なる後輩へ。
この街には不思議な流れ星の噂がある。金色に輝く流星で、1ヶ月に一度、この街の夜空にだけ現れるそうだ。
その流れ星には願い事ではなく、困り事や疑問を考えて祈るといいらしい。
そして、その流れ星を見た後は1時間ほどラジオやテレビの電波の調子が悪くなるとの噂もある。多分強力な磁力線なんかを出しているんだろう、けど見た人にしか影響しないというのも実に不思議だ。
私は明後日ここを卒業する。ついにその流れ星を見ることは出来なかったので真相は君達に託す。東京の天文学部に進学が決まったので何かあれば連絡してほしい。
連絡先は…”

一緒に書いてあった日付は7年前のものだった。この先輩に連絡する気はないけど、凛の言っていたことも嘘ではないらしい。
読書の時間も終わって、1限目。世界史だから頭に入ってこなかったわけではない。
全部の授業は、流れ星の話よりも興味を引くものではなかった。
(1ヶ月に一度なら、今度は来月かぁ…)

放課後までずっと考えて、それから部室へ向かった。
扉を開けると部長の天草先輩が椅子でうとうとしていた。
「天草先輩、お疲れ様です。今日は1人なんですか?」
僕は四角く囲ったテーブルの、先輩の真向かいに腰掛けた。
「たった今2人になったよ」
天草先輩は肩までのセミロングをかき分けながら答えてくれた。

「それはそうと…聞いたよ。早川くんが噂の流れ星を見たんだってね、彼女の姉から聞いたんだ」
早川とは凛の苗字。姉の蘭さんは天草先輩と同じクラスなのだ。蘭さんと先輩は仲が良く、こういう話はすぐに伝播する。
「そうなんですよ。僕も半信半疑だったんですけど、この紙を見ちゃって…」
僕は天草先輩に今朝の紙を見せた。
「それか、私も読んだことがあるよ。その先輩とは面識がないが知識はかなりのものだったと聞いている。その人が残した物だ、かなり期待できるだろうね」
先輩は腕を組み、目を閉じて考えつつもしっかり答えてくれた。

「この話が本当なら、来月張ってみますよ。それまではいつも通り星を見ましょ」
僕は話に一区切りをつけて、天体望遠鏡をセッティングする。最近ようやくマニュアルを見ずに組み立てられるようになった。
「そうだね、火のないところになんとやらだ。複数人が言うなら間違いないだろうね」
先輩の言葉に後押しをもらえた気がした。張り切ってセッティングした望遠鏡を飼い猫のようにぽんぽんして、席に戻る。
「早く落ちないですかね、夕陽」
「夕陽も星だよ。夏はじっくり見させてもらおうじゃないか。それに、夏の夜空は待つ価値があるほど綺麗だし」
「それもそうですね」
その言葉を最後に、僕と先輩は夕陽を学校の裏山に見送った。
その日は夜に合流したほかの部員と星を見て、記録を取った。夏の大三角はもちろん、木星をはっきりと見ることができて感動した。

例の流れ星を気にかけつつも、星の観測を続けて1ヶ月後。

「ただいま〜」
部活を終えてようやく家に帰ってきた。
ずっと変な姿勢で北斗七星を見ていたので体がバキバキになっている。
「お風呂沸いてるから先に入っちゃいなさい」
「はーい」
かあさんに促されて玄関から風呂場へ直行。脱衣所に荷物も全部置いて湯船に入る。
網戸からはスズムシの鳴き声が少し入ってきていた。
(凛の話から1ヶ月。昨日はハズレだったから、来るなら今日か?明日か…?)
風呂から上がってハンバーグを食べ、自室へ。
宿題を机にとりあえず広げて、星空を見る。
「そんな簡単に来るわけないか」
口からそう言いつつも、空を眺めずにはいられなかった。
「そういえば困り事とか疑問をお願いしろとか書いてあったな」
先輩のメモを思い出して、願うことをひねり出す。
(最近、凛とあんまり一緒に居ないけど、このまま疎遠になったりしないかな…)
まだ朝のインタビューは続いているものの、部活で毎日遅いのであんまり話せてないのが気がかりだった。

そんなことを考えながら再び星空に目をやった。 その時
夜空に星が流れた。金色に輝く尾を引いて、ゆっくりと。
「あ、あの流れ星…!流星だ!金の!」
僕は慌てて手を合わせる。さっきの悩みがそのまま脳内に残っていたのか、それ以外のことが咄嗟に出てこなかった。
願い終わると、眩しいほどに輝いていた流れ星は溶けるように空に消えた。
「あ…時間!と、場所と天気と…」
机の宿題をはね除けて、観察記録をノートに書き込む。時計を見ると21:45を指していた。
(それと、テレビかラジオだったな…)

テレビは部屋に無かったのでラジオをつける。チャンネルを一通り合わせてみたが特に異常はなかった。
「こっちはあくまで噂だったのか…?」
噂は本当だった。ラジオのノイズがだんだんと大きくなり、流れている音声がわからないくらいの雑音になっていく。
「う、うわ!」
あっという間に雑音だらけのラジオに驚いた僕は、とっさにチャンネルのツマミをマニュアルで回した。
すると、どんどん雑音がクリアになっていく。そのまま雑音が消えるようにチャンネルを合わせた。
僕はこの不思議体験の束の間の静寂に息を飲んだ。

少しして

『地球のみんな〜!元気してるかー!?』
「な、なんだなんだ!?」
ラジオから女の子の声がする。しかも日本語だし、地球…?
『今月も宇宙を舞う彗星「ハートスター」からお届けする“ここまうスペース放送局”!お相手は〜…ココと!』
『まうだぞ〜!よろしくな〜!』
BGMまでバッチリついた謎のラジオが始まった。話しているのは2人で“ココ”と“まう”と言うらしい。
『この放送は、地球人さんのお悩みをココ達2人がズバッと解決!しちゃう番組でーす!放送権?しらなーい!宇宙だから〜治外法権、治外法権〜!』
『ココ、本日もお困りの地球人からメッセージ届いてるぞ〜!早速解決だ!』
ノリノリの2人に不安よりも好奇心が勝ってしまったので、僕はメモを取りつつしばらく聴き入ることにした。

『オッケー、じゃあ今日はこのメッセージ!
お名前は…書いてないから匿名で。
部活に入ってから幼なじみの女の子とあまり一緒に居れなくて…話は結構してるんですけど、前みたいにもっとたくさん話したり遊んだりできてないと、嫌われたりしないか心配で…。
だ、そうです。まうちゃん』
(これって…)
『おー!青春の悩みだな〜。どんな部活か知らないけどまうは大丈夫だと思うぞ!興味無くなったり嫌いになったりしたらそもそも話さないしな!ココは?』
『う〜ん、悩んでる子は幼なじみの子が好きなんじゃないかな?だから嫌われたくないのかも。けどココもまうちゃんと同意見、フォローするならお休みの日に遊ぶとか?なんにせよ青春頑張れ〜!』
『よし、お悩み解決?ココも一緒の意見だし、心配しなくていいぞ!部活も恋も頑張れ〜!』

『じゃあ次のメッセージいくね〜、お名前は…独り言大納言さんから……』
ラジオからの音がだんだんと小さくなって、ついには無音になってしまった。
ツマミを回しても他の放送がクリアに聴こえるだけで、もう2人の声はラジオから出てこなかった。
「悩み事…心配ない……か」
心を見透かされたような感覚。いや、そっぽを向いていた顔を元に戻してくれた。と言うのが正しいのかもしれない。

“ここまうスペース放送局”の情報をノートに記した後、僕は自分の気持ちを整理した。
凛が話しかけてくるのを待つんじゃない。僕からも言わなくちゃ。
僕は星空を見上げてお礼のお祈りをして、布団に入った。

翌日

「ねえ、昨日出たよ!金ピカの流れ星!見た?」
今日も朝イチで凛が話しかけてくれる。
「うん、見たよ。凄かった。凛の言う通りだったし、大発見かもね」
「ほんと!?やっぱ大発見だ〜!このお手柄は半分こしようね!」
凛の提案に少し大きく驚いてしまった。けど凛はいつも通り。いつも元気でいつも優しい。
そんな凛に向けて、今日は僕もインタビュアーになる。
「ありがとう凛。それとさ、昨日の夜空は他にも特別ところがあったんだけど知ってる?」
「え?うーん…流れ星以外は特に何も…。答えは何?」

「昨日はね、月も綺麗だったんだ」

  ユメグラ二次創作短編 小恋&まう おしまい

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