ユメノグラフィア短編感想-朝霧いづる編ノ序-

晴天。
高々と上るお日様に左手をかざし、閉じてない目に影を落とす。
暑さか、はたまた終わりそうな季節に淘汰されてしまったのか、最近はセミの声も恋しい。

ケータイに顔を映しても、現在時刻は熱気のど真ん中。これだけ暑いと心に付けた火も滴る汗ですぐに消えてしまう。
天の雄姿はいつ見てもソウゴンだ。ピンチでメソメソな気持ちも乾くような光線を発している。
だが、そういうのは怪獣や怪人が来たとき…本当のピンチに駆けつけてきてくれ。今は空のベールを介していても関係なく身体に直通なのだ。

なんて、ウダウダ言いながらいつもの道を行く。交差点を司る青に手を振って、そっぽを向くミラーの顔を覗き込み、川にマウントを取っている橋の端を渡る。
羽なんて無いが、俺は翔る。誰もいないアースマラソンは軽やかな足取りでいつも一番だ。

時は弓矢の如くぶっ飛んで進む。集中すればするほど、弓矢の先ははっきり見えてくる。もうすぐ…ズドンと目標を貫くだろう。
時空の門を貫いた先、俺はたどり着く。

さぁて、『夢』見ちゃいますか…!

カードは人差し指と親指で、もしくはどの指先も触れず、包み込む様に持つのが常だ。
準備は磐石。争奪戦に飛び込む覚悟は出来ている。
今宵狙うは…あえて言うまでもないだろう。
俺は二兎は追わない、一兎でいい。なにせ、二兎を得てもこのご時世では卓を囲めないのだから。

少し早めに到着した俺は緊張した首をなんとか回して辺りを見る。総じて周囲も同じ気持ちらしい。
俺は目標を視界のセンターに入れて、販売開始を待つ。
多分大丈夫だろう、俺はこの日のために寺院にて祈ってきたのだ。神社と寺の違いは分からないが、祈ることはできる。人間の傲慢だ。

真実は一つ。それは紛れもないが、自分の真実は自分で決めたい。
剣先に立つ震えた心臓を何とか押し込んで、栄光へと走った。
一瞬の鼓動が明暗を分ける。俺は世界の鼓動に合わせて手を伸ばした。

手に咲く一輪の花。
俺は、今日こそ掴んだ。ピンと張った心の弦が揺れる。揺れる弦は音となり、俺の口を飛び出した。

意味のない喜びを上げた後、枯れた喉で呟く。
ついに…来てしまったな。

周囲の目が痛いのでチケットを握りしめて早々にこの場を後にした。

紅葉に染まる公園のベンチに腰掛け、辺りをうろつく野良猫に目をやる。
三毛猫は俺の手元を見るなり、興味なさそうに鳴いて立ち去った。
チケットなんぞ猫には無価値だろう。鳴き声のデュエットはにゃんこ同士でいくらでもやってくれ。
変なテンションの俺は吐き捨てると、宮崎駿のアニメのように全身で笑った。

見上げるともう夜だ。月も満面。
ソラを見ていると…永遠を見ているような感覚になる。果てしなく、限りない世界。

俺はその一片を理解できるのか?はたまた一変してしまうのか。

それは分からないが、とにかく楽しくなりそうなのは間違いないだろう。

そう、俺はまた向かうのだ。時も、果ても、現実もない世界。

ーーーユメノグラフィア

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