ユメグラ二次創作短編 リナ・リア ノ巻#2

うん!美味しい。君も飲んでごらん?僕が入れた『いつもの』コーヒーもなかなかのものだろう。
え、もうカメラ回してるの?い、言ってくれよ!こんなやりとり残しても意味が…いや、君が見たいならいいか。

お〜、その表情。気に入ってもらえたようだね、いろいろ試してみてよかった。ポイントはトウガラシをね…。
おっと雑談はこの辺にして、本題に入ろう。
さっきの話は少し抑えてたけど、今後はより生死に関わる表現が多くなる。
だから苦手だったらここでテープを止めて。
文献も一緒に残す予定だからそっちを見てほしい。

……いいかな?じゃあ始めていこう。

精神定着のフェイズに入る日。所長も含めて培養室に集合した。
所長が手を二回叩いて話し始める。
「みんな、3ヶ月ありがとう。残念ながら志半ばとなった検体もいたがこればかりはしょうがない。次のフェイズのおさらいをしよう」
全員気持ちは前向きだった。試験で検体が亡くなることは初めてじゃない。だけどその度に悲しめることもこのチームの良さだと僕は思う。

「これから6ヶ月、肉体に精神を定着させるために外部刺激を与えて様子を見る。刺激は音を推奨する。他は困難で効果が薄いからだ。自発行動が見られたら精神が入ったものとして培養機から取り出す。その後は個別に能力チェックをして、育成開始だ。
以上、何か質問は?」
ソウイチが静かに手を挙げた。
「私は金属音を聴かせたいと思ってます。それが他の検体に良くない影響を与えないか心配なのですが」

所長は髭を2度撫でて返事をする。
「ふむ…だったら防音になる透明な仕切りを作ろう。07号には金属音は大事そうだからね。そういえば07号の名前は決まったのか?」
「ありがとうございます所長。それと検体07の名前ですが“アルマ”という名前にしました。きっといい魂が入るでしょう」
僕達がソウイチの言葉に笑顔を作った後、所長も一緒に微笑んだ。
「いい名前だ。どう育つのか今から楽しみだね」

さて…と、一息置いて所長は培養機の中を覗く。成長具合を見ているようだ。
「フロ・リナは髪と肌の色をリアナから引き継いでいるね。街を歩く子供と何ら変わりない見た目だ、これなら精神定着もしやすいだろう」
確かにフロ・リナはリアナの特徴が顕著に現れている。リアナの小さい頃は見たことないけどきっとそっくりなんだろうと自然に思えた。

「リナ・リアは…いわゆるアルビノ種だな。遺伝子情報伝達に何かしらの異常があったのかもしれない。髪と肌が雪のように白いのはそのせいだろう。
アルビノ種は体が弱い場合が多い。心配事は多いが無事精神定着してくれることを祈ろう」
リナ・リアは最初から体内の色素が薄かった。初期段階では気にならなかったがそのまま大きくなったので、病気のケアなどはかなり気を付けなければならないだろう。
リアナは「私の遺伝子を受け継いでいるからきっと大丈夫」と、所長に力強く返していた。

「次はベルタンか。ファンタジー世界に出てくるリザードマンのような顔立ちだね。皮膚も鱗が観察できる。
それと…帽子のように巻貝が頭に乗っているね、アンモナイトのような…そんな印象だ。
どんな生態を見せてくれるか楽しみだね」
古代生物とはいえ人間ベースだとそこまで大きくはならないようだ。一方で太い尻尾や鋭い爪も見受けられる。
所長はスミオとタツロウによろしく。と伝えて次に移った。

「アルマはすごいな、見た目は角ばった甲冑を着ているようだ。しかし細かく見てみると金属部分は鱗のように細かく分割されているし、関節部分はぶつからないようにうまく重なってカバーされている。
これなら金属組織によって成長を阻害されることもないだろう。今はそうでもないけど、外に出たら力が必要だから体も大きくなりそうだね」
アルマはマシーンのような印象を受けるが、ほのかに生物っぽさが残る見た目だ。
右脇腹の一部にサビがある。これも生きている証のようで興味深い。
「所長、ここにサビがあるでしょう?これは金属と生体組織との反応が盛んに行われているからだと考えられます。つまり、アルマはここから金属を食べる。と推測できます」
ソウイチは持論を展開した。みんな自分の子を誰よりも観ているからこその考察だ。
「なるほど、確かにサビている。鉄以外も食べるのか、何が好きかも知りたいところだ」
所長も自分の知らないことに興味津々だった。

「よし、検体に異常なし。では培養機05と06の間に仕切りを立てて次のフェイズ開始だ」
所長の指示で僕達男組は仕切りを設置し、その後グループに分かれて検体達に働きかけた。
僕とリアナはクラシックを音楽をかけつつ絵本の読み聞かせ。
スミオとタツロウはジャングルの環境音を流しつつ定期的に紫外線ライトを当てている。
ソウイチは…。

「銅羅(どら)…?ソウイチ、金属音ならトライアングルとか、金管楽器とかでもいいんじゃないの?」
リアナは遠目からでも分かる銅鑼に当たり前の疑問を問うた。
「アルマは体が大きいから、低くて大きい音の方がより響くと思ってな。分厚い扉は思いっきりノックするに限る」
答えながら培養機の前まで銅羅を持ってきたソウイチは思いきり鳴らす棒を振りかぶった。
「そら!とびきりの目覚ましベル……だ!!」

ドワアァ〜〜〜〜〜〜〜ン!!

仕切りを破らんばかりの轟音が僕達の体をビリビリと揺らした。
しかし、それで目覚めるわけもなく培養機の荒々しい水面が静まり返るのみだった。
「どうした?みんなも私のことは気にせず続けてくれ」
ソウイチは僕達を促して、今度は控えめに銅羅を鳴らした。一応気遣ってくれているらしい、最初の一発は景気付けだったようだ。

「じゃあ私達も始めましょう。タツロウ達もお互い頑張りましょうね」
リアナの声にタツロウとスミオは手をあげて応える。担当が分かれているとはいえこれは競争ではない。全員が、すべての全ての命の誕生を願っているんだ。

初日はみんなやりたい事を計画通りにやれたが、産声が聞こえることは無かった。
その後も、当たり前のように1週間…2週間…と変化のない日々が続いた。
しかし、僕達は誰も焦らなかった。定着しなくて当たり前。その当たり前をひっくり返すために毎日試行錯誤を重ねた。

そして3週間と過ぎて、翌22日目。

「う…うわっ!!」
黙々と銅羅を鳴らすソウイチが声を上げた。
仕切りの向こうからする聞き慣れない声に僕達は少し遅れて振り向く。
「みんな…!アルマの目が……目が開いた!青い目だ!!見てくれ、青だ!」
各々手を止めてアルマの培養機へと駆け寄る。培養液の中から、アルマの目が力強く光っているのが見えた。
「ひとまず反応を見よう。アルマ!ほらこっちだ、こっち!」
ソウイチは呼びかけながら手をあちこちに振る。それを目で追っているのが確認出来た。
手が止まると、アルマは僕達に視線を配った。
「よし…!自発的に辺りを観察している。魂が入ったかもしれないな」
ソウイチの心は決まったらしい。培養機のロックを外しに近づいた。

培養機直前でスミオが何かに気付く。
「ソウイチ、危ない!」
「え?」
培養機の中のアルマは繋がれているワイヤーをあっという間に引きちぎり、拳で一撃。培養機のガラスをぶち破った。

「お、おいアルマ!!」
ソウイチは培養液と共に流れ出てきたアルマに駆け寄る。ソウイチは培養機横のコンソールにいたため怪我は無さそうだった。
アルマは自力で立ち上がり、ソウイチを見つめる。身長は150~160cmくらい、まだ4ヶ月とは思えない体躯だ。
「アルマ、俺の名前はソウイチ。お前の名前はアルマだ。分かるか?」
ソウイチはアルマに優しく語りかける。
「ガ…グ………ゴ……グ…」
アルマは少し唸るような仕草をして、うなだれた。
少しだけ発した音の真意を僕達は理解できず、悲しそうにしているアルマを見守ることしかできなかった。

「アルマ、どうした?怖がることはない、みんな歓迎しているぞ」
どうコミュニケーションを取っていいのか全員が分からない中、ソウイチは焦ることも、怯むこともなくアルマに語りかける。
「ゴ……、グ……!」
うつむいて唸っていたアルマが突然顔を上げ腕をまっすぐ持ち上げた。
握った拳からしなやかに指が出てきて僕達の後ろを示す。
「どうした?アルマ、何かあるの……かっ…」

全員が振り向くと、目が合った。
「ウソ……そんな…」
リアナが驚きと喜びと、少しの畏怖を混ぜた声を出す。
真っ白な肌から覗く真っ赤な瞳。鋭くも綺麗な眼光には、確かに命の息吹を感じた。
「こりゃあ……絵画か絵本か…どっちかな?個人的には“眠れる森の美女”って感じだけど。いや…森って感じでもないか」
タツロウが感想を言い終わる頃にはリアナがすぐそばまで駆け寄っていた。
「リナ・リア……!!目覚めてくれたのね!今出してあげるわ…!」

リアナがコンソールを操作して培養機のロックを外す。培養液が排水され、扉が開く。
リアナは横たわっているリナ・リアを抱きかかえようと中へ入った。
「待ってください、立てます。1人で。」
リナ・リアは掌をリアナに向けて制止し、立ち上がった。
「リナ・リア……あなた言葉が分かるの…?」
自立どころか既に会話ができることにとても驚くリアナ。リナ・リアは澄ました顔で続ける。
「ええ。いわゆる“前世の記憶“というのがあるので言葉も話せますし体もなんとか動かせます。肉体が違うので少し違和感がありますが…」

驚いたのはリアナだけではない。とても饒舌に説明してくれる彼女に、僕達は返す言葉を必死に探していた。
リナ・リアは物言わぬ男共に向き直ると、一礼して微笑みかけてくれた。
「皆さん、今日からお世話になります。私の名前は…リナ・リア……で、いいんですかね?」

僕は、照れくさそうに笑うリナ・リアに対して首を縦に振るのが精一杯だった。


ん、もうテープがギリギリ?うーん、もう少し容量のあるテープがあればなぁ〜〜。
けど、さすがに2本も撮ると疲れるね。ちょっと長めに休憩しよう、お腹も空いてきたし。

君は何がいい?
ステーキは昨日食べちゃったじゃないか。確か残ってたのは燻製肉が少し……、よしサンドウィッチにしよう。お手伝いよろしく頼むよ。

あ、締めがまだだったね。
2本目も見てくれてありがとう。次が無事に撮れてたらたぶん君の手元にあるんだろうね。
それじゃあまた次回。一足先に失礼するね〜


2本目も終わってしまった。

次が気になるところだが、1度食事にしよう…。

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