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『やき☆とり』

#サクラ革命 #サク革飯
サクラ革命・十字街まな誕生日記念小説
『やき☆とり』

 帝都某所、午後7時前。
 駅前の家路に急ぐ人々のまばらな雑踏の中。腕時計を見ながら人待ち顔の帝国華撃団司令が一人たたずんでいた。
「司令、お待たせ」
 司令が呼ばれた方に視線を飛ばすと、腰まで伸ばした編み込みの長髪の乙女、十字街まながカメラを構えていた。
 パシャッ!
「いい顔いただき!」
 不意を突かれて写真を撮られてしまった。司令はムスっとした顔でまなに隠し撮りはダメだとたしなめる。
「ああン、ごめんって」
 ペロッと謝るが、司令が本気で怒ってないのはわかっている。いつものことだ。
「それで、この後はどこに連れてってくるンっだっけ?」
 北海道函館市出身の写真家乙女。誕生日祝いに美味しいものをごちそうしようと誘った。夕食の時間を見越しての集合時間にしたが、まなはもう少し早めを希望した。
「その日の感じだと、もうちょいちょい早めがいいなあ。ほら、マジックアワー」
 マジックアワー。
 1日の中でドラマチックに空の変化する、明け方や夕暮れ前からの貴重な時間帯。
 写真を趣味にするまなにとって普段なじみのない町は格好の被写体。そうなるとちょうどマジックアワーに合わせて最高の瞬間を撮影するための位置取り、ロケーションもしておきたいとのこと。
夕食前、というよりは、昼飯後、二人で駅周辺を散策することとなった。
 あーでもない、こーでもない、あそこがいい、ここがいい、すでにテスト撮影が始まっていた。司令はカメラバッグを担いでまなの後をついていく。数か所の撮影場所を想定して、地図の上にマーキング。通行人の邪魔にならないようにライン移動のイメージ。
 そして待望のマジックアワーの到来。
 
「いやあ、いい写真撮れた。司令のおかげだよ。
あ!いけない。撮り忘れがあったわ!司令は駅前で待っててくれる?大丈夫、時間にはちゃんと戻って来るから!」
 有無も言わさず、まなが戦場カメラマンよろしく人込みを足早にかいくぐって行った。

 駅前でまなが司令と合流し、予約した店へと向かっていた。
「私としてはいい写真が撮れたからもう満腹みたいなもんだけど、こうやって帝国華撃団にかでった訳だし、司令の貴重な好意は無下にしないからね」
 まなと司令がおしゃべりしながら徒歩数分。


 十勝ダイニング 『豚っく』

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 予約してあることを店員に伝える。名簿の確認がすむと笑顔で地階に誘導される。
「さすが司令は来慣れてるね」
 階段を降りると下駄箱があり、そこで靴を脱ぎ、掘座敷の個室に案内される。
「ふんふん、この位置なら、司令はこっちで、私はここね」
 まなは照明の位置や調度品に目配りしている。
「さてさて、どんなもんかなって、うお!これ?ホントになに頼んでもいいの?
いいねえ!いいねえ!」
 メニューを広げると十勝のみならず北海道の海山の幸が溢れている。道産子のまなのテンションがあがる。
「これがオススメなんだ。司令は大盛り?特盛?へえ、並みでいいンだ。じゃ、私も。あとはデザートね」
 店員にオーダーする。料理の写真を撮ってもよいか確認すると、他のお客さんが映り込まないよう、迷惑にならないように、と念を押された。
「うん、そこはね。守らないとね」
 幸いまだ他の客は来ていない。まなは早速料理が来た時を想像してファインダーを覗いている。そうこうしていると飲み物が運ばれてきた。

 パンチレモンソーダで乾杯。

「お誕生日おめでとう!わたし!でいいンだよね?」
 まなは普段から毎日が特別な日として過ごすことが当たり前で、自分の誕生日を特別に意識することが稀だと話していた。そこで司令は特別にご馳走したいと提案したのだった。
「ま、司令にとって特別な日っていうンだったら、ね」


一皿目、やみつき冷奴

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 真っ白い豆腐の上に、橙色の食べるラー油が載っている。ふんわりアフロのようなオカカにあさつきの緑。
「いいね!いいね!」
 パシャパシャ
「OK、食べよ食べよ!あ、私からね」
 まなが箸で半分に豆腐を割り、司令に近い方を皿に取り分ける。残った半分を自分の分として一口、豆腐とラー油を載せて口に運んだ。
 シャリシャリ
「ん!」
 フライドオニオン、フライドガーリックがシャリシャリと歯触りが良い。ラー油の香ばしい辛さがつめたい豆腐とあう。豆腐も豆自体がいいのだろう。つるっとして実に後を引く。
「うま!おいしいね!これならもっと頼んでもよかったかもよ」
 あっという間に皿の上の冷奴が消えた。


 二品目、国産豚ヒレ肉のよだれ豚

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 豚の塊肉に火を通した後、しっかり冷却して厚切り。
ゴマだれをたっぷりと、仕上げの白髪ねぎをこんもり山盛り。
「これは!」
 バシャバシャバシャ!
 他の客が来ていないうちにとカメラを連射する。
 撮影もそこそこに、司令と自分の分を半分こに取り分けた。豚肉とネギをバランスよく箸でつかんで食べる。
「んふう!」
 ひんやりしまった肉質に濃厚なゴマだれ。
 摺りゴマだけではない、落花生を砕いてコクが増しているのだ。シャキシャキした白髪ねぎと水菜の爽やかさもいい仕事をしている。
「うンまいねえ!」
 まながうなる。実に美味しそうに食べる。


 「でね、道産子が焼き鳥っていったら、豚肉のことなのさ…」
 しばらくして、店員から食事の用意とのことで、ハーフサイズのサラダと味噌汁が運ばれてきた。
「いよいよお出ましですか?どうかな?まだかな?」


三皿目、『十勝帯広本物の豚丼』バラ肉とロースのハーフ&ハーフ・並盛

「な、なにこれ?!」


 小ぶりな大きさの蓋をされた丼が運ばれてきた。その丼からははみ出している。豚肉が。
 まなが意を決して蓋を開ける。

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「なまらでかっ!ええ?!」

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 丼からこぼれんばかりの豚肉の花。たっぷりとつけられた琥珀色のたれが艶やか。中央の白髪ねぎが眩しい。

 パシャ パシャ

 まなのシャッターがいつになくゆっくりと押される。フレームに収まり切れない。

「あ、そうだね。食べないとね。いただきます。」
 おそるおそるロース肉に箸を伸ばす。

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 厚い。大きい。重い。
 一枚持ち上げても焼き肉一枚よりも大きい。

 サクッ

 十勝産かみこみ豚のロース肉質がサクサクしている。
甘辛く煮詰められたたれとロース肉の油。
きめの粗い肉質がまさに豚肉だ。
「ふんン!」
 白飯を一口。こちらも北海道産米、ゆめぴりか。
あう。実にあう。肉と脂と甘辛いたれとを白飯がしっかと受け止める。

 今度はバラ肉。

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 じゅわっ

 ロースよりも脂身が多いがくどさはない。むしろ脂自体が甘くて美味。きめ細かい肉質はかむほどにやわらかく豚肉を感じる。

「なまらうまっ!」

 ロース、バラ、バラ、ロース…
 かわるがわる肉を米をかきこんでいった。
 これだ。
 まるでかき氷のように山盛りのご飯が、肉が消えていく。

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「はあぁ、やっばいわ。食べ切れちゃったわ」
 二人とも丼は見事に空になっていた。
 食後のシャーベットがおなかの隙間にいいあんばいに収まった。
「へえ、前は、これに、ラクレットチーズのオプションがあったの?それはやばいべ?ほじゃまた復活したら、ななこも連れてきてよ!
ななこがいっしょならこっちのエゾシカのしゃぶしゃぶもありだわ!なんなら明日でもいいよ!
べ、別に生き急いでるわけじゃないってば!」
 


「今日の写真もすごいけど、最後の豚丼にはやられたよ。
写真?いいけど、この辺からかな、はい」

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 日常的な風景にとどまらず、人の生活の断片が一枚一枚に収まっていた。
「あ!?そこからはダメ!たまたま、良さそうな被写体がいたから、シャッター押しちゃっただけだから!特別な意味はないから!」
 
 そこには、駅前の家路に急ぐ人々のまばらな雑踏の中。腕時計を見ながら人待ち顔の人物が写っていた。
 何枚も何枚も。

おわり。

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