世界経済フォーラムの根底に流れるブラジル人司教の共産主義思想

この投稿はF. William Engdahl氏の2021年12月26日の記事(下記のリンクを参照)の抄訳です。
誤訳や訳漏れがある可能性がありますので、記事の内容を参考にする場合は必ず下記リンクの英語原文に依拠してください。
また、日本人に伝わりやすいように原文にはない文言や説明を追加している場合がありますので、ご承知おきください。
英語原文:

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クラウス・シュワブの「グレートリセット」、教皇、「解放の神学」の危険な結束

寄稿者:F. William Engdahl
Global Research、2021年12月26日

スイスに本部を置く世界経済フォーラムの創設者であるクラウス・シュワブは、かつては知名度が低かったが、全世界が新型コロナウイルスの流行に伴うロックダウンと経済的混乱の最中にあった2020年に世界の舞台に現れ、パンデミックをきっかけとした全世界経済のグレートリセットなるものの実現を訴えた。
2020年7月には、自身の計画の概要を記した書籍を出版した。その計画とは、グローバルなトップダウン型の中央計画経済によるテクノクラート社会とでも呼ぶべきものだった。ダボス会議のウェブサイトで誰も何も所有しない世界になると言い表されているこの計画は事実上、グローバル全体主義社会の実現を目指すものであり、シュワブは地球温暖化に対する恐怖心と世界の貧困層の窮状を利用してそれを正当化している。
あまり知られていないことだが、シュワブはこの破滅的な計画を、1970年代にブラジルで出会ったカトリック教会の司教からインスピレーションを得て生み出した。シュワブの巨大なグローバリストネットワークと現教皇フランシスコの強力な政治的影響力を結び付けているのも、その司教だ。
伝統的なカトリック教会の司祭像からかけ離れたこの司教は、「レッドビショップ(赤い司教)」と呼ばれ、カストロのキューバ革命や、敵対する勢力を粛清し何百万人もの中国人を殺害あるいは虐殺した毛沢東の文化大革命を支持していた。その司教とは、1960-1970年代に「解放の神学」という教会運動を起こして広めたブラジル人指導者、大司教ドン・エルデル・カマラ(Archbishop Dom Helder Camara)だ。(参考:Wikipedia「エルデル・カマラ」)


ナチズムから共産主義へ
エルデル・カマラには、極右から極左へと転じた過去がある。1934年には、ムッソリーニを支持するブラジル人聖職者のファシズム運動であるブラジル統合主義運動(Brazilian Integralist Action、Acao Integralista Brasileira、AIB)を指導した。(参考:Wikipedia「ブラジル統合主義運動」)
これは決して形だけの参加ではない。カマラはカトリック教会の若手司祭としてAIBの最高評議会の一員となった。そして1936年にはすでに、AIB創始者のプリニオ・サルガード(Plinio Salgado)の個人秘書およびAIBの全国長官を務めていた。
1920年代に見られたムッソリーニ率いるファシスト党のブラックシャツやヒトラーのブラウンシャツのように、ブラジルのAIBはグリーンシャツを着用した民兵組織を展開し、1930年代のブラジルにおいて積極的かつ暴力的に街中で共産主義者を攻撃していた。
カマラは、1930年代初めに司祭に叙任された際、司祭の平服であるカソックの下にグリーンシャツを着ていたと言われている。今となっては有名な左翼であるカマラがもともと親ファシズム活動家だったことは、カマラの人生に見られる数ある興味深い点の一つだ。しかし、ブラジル人作家がカマラの伝記を書いたとき、すでに司教となっていたカマラと教会はそれに関する記述を阻んだ。
戦後の1946年、エルデル・カマラはどういうわけか、ムッソリーニとヒトラーを支持するファシズムのAIBから、マルクスを支持する「進歩主義」のブラジルカトリック運動(Brazilian Catholic Action)に移り、その副総長となった。ブラジルカトリック運動の青年団であるJUCは、1959年にカストロが起こしたキューバ革命を公に容認した。1963年、カマラが支援していたJUCの一派閥であるAção Popular(AP)は、自分たちが社会主義者であることを明言し、「生産手段の社会化」を支持することを宣言した。
カトリック団体であるAPの規則では、ソビエト革命が賛美され、「革命の理論と実践におけるマルクス主義の重要性」が認められていた。エルデル・カマラは、1964年から1985年まで、ブラジル北東部のオリンダとレシフェの大司教を務めた。

「解放の神学」の始祖
エルデル・カマラが貢献したブラジルカトリック運動はすぐに、カトリック教会だけでなく他の教会にも波及し、世界中に広がった。ペルー人司祭のグスタボ・グティエレス(Gustavo Gutierrez)はのちに、これを「解放の神学」と呼んだ。(参考:Wikipedia「グスタボ・グティエレス」)
この「解放」という言葉は、司祭たちが訴えていたのは「神は貧しい者を優先的に愛す」というキリスト教の神託であることを表していた。
この運動は、抑圧され搾取されている第三世界の国々における解放活動に尽力することが教会の役割であると主張した。これにより、カトリック教会の姿勢が大きく変化することとなる。司祭たちはニカラグア共和国のアナスタシオ・ソモサ・デバイレ大統領などの独裁者に対する暴力を正当化し始め、1970年代にはたくさんの司祭が武装してサンディニスタ民族解放戦線などのマルクス主義団体に加勢した。(参考:Wikipedia「サンディニスタ民族解放戦線」)
グスタボ・グティエレスは明確に、「現在の不公平な状況を終わらせ、より自由で人間的な別の社会を構築する」ことを呼びかけた。
穏やかな表現で言うと、こうして教会は、必要に応じて力を行使し、新興国で暮らす極めて貧しい社会階層の人々を解放して富を再分配する運動に徹底的に取り組み始めた。カトリック教徒の多い国々では、共産主義者の支援を受けていたゲリラ運動がすぐさま、自分たちの戦いにマルクス主義の教義を超えて社会的正当性を与えてくれる司祭の有用性に目をつけた。グティエレスは、「解放の神学の根幹は革命的闘争心である」と語っている。
また、教会に対するカマラの社会運動を支持した仲間のブラジル人司祭レオナルド・ボフ(Leonardo Boff)は、「我々が提唱するのは、神学におけるマルクス主義、すなわち唯物史観だ」と述べている。(参考:Wikipedia「レオナルド・ボフ」)
ボフらはその後、大地主から農地を奪って貧しい農民に与える過激な農地改革を支持することから、解放計画の一環として急進的な地球温暖化対策を支援することへ舵を切った。そして、この運動は南米からアフリカやアジア(ジンバブエやスリランカなど)へ広がった。
突き詰めると、ANTIFAやBLMといった現代の大規模な運動や地球温暖化対策運動全般に見られる「被害者」イデオロギーは、エルデル・カマラの解放の神学によって生み出されて広まった社会的風潮に端を発している。

レッドビショップとクラウス・シュワブの出会い
半世紀前にダボスで世界経済フォーラムを立ち上げたクラウス・シュワブは最近、公の場での発言で自身の人生を変えた2人の人物に言及した。
一人は、1960年代後半にハーバード大学で師事したヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)だ。
そしてなんと、もう一人はレッドビショップことエルデル・カマラだった。
ニクソン政権で国務長官を務めたキッシンジャーは、チリやアルゼンチンなどの左翼政権を転覆させてアウグスト・ピノチェトやホルヘ・ラファエル・ビデラらの残虐な軍事独裁政権を擁立する陰謀を企てたのに対し、エルデル・カマラはそれとは正反対の立場で貧しい人々を結集して国家に立ち向かった。(参考:Wikipedia「アウグスト・ピノチェト」、「ホルヘ・ラファエル・ビデラ」)
世界経済フォーラムは2010年に、『The World Economic Forum: A Partner in Shaping History–The First 40 Years 1971 – 2010』(世界経済フォーラム:歴史を紡ぐパートナー - 1971-2010年の最初の40年)という謙虚なタイトルでありながら中身は自画自賛だらけの書籍を出版した。
その本では、シュワブが開催するエリートのビジネス会合に招待する講演者やゲストを決める上で最初からキッシンジャーが中心的な役割を担っていたことが描かれている。
また、1974年の出来事について次のように記されている。
「1974年の欧州経営シンポジウム(European Management Symposium、世界経済フォーラムの前身)で注目すべきことは、ブラジルのオリンダおよびレシフェのローマ・カトリック教会大司教を務めるドン・エルデル・カマラが登壇し、挑戦的だが極めて重要な意見を発信するプラットフォームとしての世界経済フォーラムの役割を後押ししたことだ。カマラは、多くの国やビジネスリーダーからペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)と見なされていたにもかかわらず、ダボスに招待された。また、カマラは『天然資源の不公平な分配に苦しんでいる3分の2の人類の代弁者』を自称していた」
さらに、次のように説明されている。
「ドン・エルデル・カマラは、いつか新興国が経済大国に挑み打倒すると予測した。多国籍企業が多くの人々を劣悪な状況から抜け出せなくしていると非難した。そして、全人類の繁栄を達成するために、社会に対してより高度な責任を果たし、より公平に富を分配し、『浪費社会』の間違った価値観を見直すことを求めた」
ある動画でシュワブはこのように述べている。
「私の人生においておそらく極めて重要だった出来事を一つ挙げるとすれば、初めてブラジルを訪れたときに、当時『貧しい人々の司祭』として知られていた司祭に出会ったことです。その人こそ、ドン・エルデル・カマラです」

世界経済フォーラムと教皇フランシスコ
2013年の教皇就任後まもなくブラジルを訪れたフランシスコは、ブラジルで消えることのない「教会の歴史」を築いた人物としてエルデル・カマラの名前を挙げた。
また、同年に発表した『Evangelii gaudium (The Joy of the Gospel)』(邦題『使徒的勧告 福音の喜び』)において、フランシスコはエルデル・カマラらの解放の神学の言葉を借り、「貧しい人々を優先的に選択しなければ、福音の布告が(中略)正しく理解されず、埋没してしまう恐れがあります」と述べている。
この「貧しい人々を優先的に選択」という言葉が鍵だ。高尚な言葉のように聞こえるが、実際には何を意味しているのだろうか。
注目すべきことに、クラウス・シュワブは2014年のダボス会議に教皇フランシスコを個人的に招待し、演説を依頼している。
フランシスコはその後シュワブに数々の書簡を送り、現在では世界経済フォーラムのアジェンダコントリビューターとなっている。2020年10月、世界経済フォーラムの公式ウェブサイトに次のように書かれた記事が掲載された。
「先週の日曜日に発表された43,000ワードの長い回勅において、教皇はコロナの惨状への対応として世界経済のグレートリセットと呼ばれるものの実現に取り組むことを認めた
2015年、貧しい人々の特別保護者を自称するフランシスコは、列聖省の特別な手続きを開始することを認可し、エルデル・カマラの「列福」の手続きに着手した。
それ以降、教皇は地球温暖化対策、コロナに対するワクチン治療、ジェンダー平等、移民、裕福な人から貧しい人への富の再分配などの社会活動を支持する政治的立場を取っており、教皇任期の大部分をそのような社会活動に費やしていることが議論を呼んでいる。

グレートリセット
世界で最も影響力のある企業グローバリゼーションフォーラムの創設者であるクラウス・シュワブが、解放の神学の始祖であるエルデル・カマラや、史上初のイエズス会教皇としていたずらにカマラの考えを現代に蘇らせているリベラルな現教皇フランシスコに傾倒しているのはなぜだろうか。
クラウス・シュワブは決してマルクス主義を信奉しているのではない。シュワブは、「グローバリゼーションの親玉」だ。
世界中で協同組合主義的なグレートリセットを実現するためには、私有財産制や安定した中流階級を大々的に攻撃する必要がある。それを実行することについて特に世界中の若者や貧しい人々から大きな支持を得る方法として、フランシスコとシュワブのイデオロギーを組み合わせるのは効果的だ。
2020年11月、教皇フランシスコは、新たな「社会正義」が必要であり、私有財産制は明らかにキリスト教のものではないと主張した。「新たな社会正義を実現し、キリスト教の伝統では私有財産権が絶対的な不動の権利として受け入れられていないことを認めましょう」とフランシスコは述べたが、詳細は語られていない。
教皇は2020年10月に発表した回勅『Fratelli Tutti』(邦題『兄弟の皆さん』)でも、私有財産制を攻撃している。そこには、このように記されている。
「経済活動を行う能力は、神から与えられたものであり、常に明確に他者の発展と(中略)貧困の根絶のために行使されなければなりません」
また、教皇は次のように主張している。
「私有財産権には、『いかなる私有財産よりも地球の財産の普遍的な目的が優先される』という最も重要な原則が常に伴います。したがって、すべての人にその財産を使用する権利があります
世界経済フォーラムのクラウス・シュワブが2020年に出版した書籍『The Great Reset』には、これとよく似たことが書かれている。
「まず何よりも重要なのは、パンデミック後には、裕福な人から貧しい人、資本家から労働者へ、壮大な規模で富の再分配が行われる時代が到来するということです」
シュワブは、市場経済新自由主義の時代はもう終わりであり、大きな政府が介入して「持続的」な環境政策を実行する必要があると主張している。
世界経済フォーラムのウェブサイトでは、誰も何も所有しない世界へのリセットに向けたビジョンが描かれている。ある動画では、「You will own nothing and you will be happy(何も所有しなくなり、幸せになる)」、そして「Whatever you need, you will rent(必要なものは何でもレンタルできる)」という2030年の世界のビジョンが示されている。
どうやら衣服までレンタルするようになるようだ。
2030年、「人類は何も所有しなくなり、幸せになる」。
シュワブは、「環境正義」を実現するために、このような全世界における財産権の抜本的な再分配が必要であると述べている。これは、「グリーン金融政策」によって現在の金融システムを撤廃することを求めるフランシスコの思想と同じだ。
世界経済フォーラムが教皇の計画を支持していることは、見かけよりもはるかに危険なことかもしれない。
グレートリセットとは、完全管理、ハイテク監視、ワクチン接種義務、中流階級から下流階級への大規模な所得再分配といったグローバリストの新たな計画に都合の良いように、人類の権利と自由を奪うことだ。シュワブはマーケティングの名人以外の何ものでもなく、シュワブが唱える破滅的なグレートリセットと「環境正義」はただのマーケティングだ。

本記事の掲載元はGlobal Researchです
Copyright © F. William Engdahl, Global Research, 2021

寄稿者:
F. William Engdahl


訳者注記
誤訳や訳漏れがある可能性がありますので、記事の内容を参考にする場合は必ず下記リンクの英語原文に依拠してください。
英語原文:https://www.globalresearch.ca/the-sinister-convergence-of-klaus-schwabs-great-reset-with-the-vatican-and-liberation-theology/5765459

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