【翻訳】Twitterファイル #15 - マスコミ御用達のデータ分析サイトの大嘘

この投稿はマット・タイービ(Matt Taibbi、@mtaibbi)氏の2023年1月28日のツイート(下記のリンクを参照)の翻訳です。
誤訳や訳漏れがある可能性がありますので、記事の内容を参考にする場合は必ず下記リンクの英語原文に依拠してください。
また、できる限り原文に添付されている画像の内容を確認しなくても話の流れを理解できるように表現を変えたり、日本人に伝わりやすいように原文にはない文言や説明を追加したりしておりますので、ご承知おきください。
英語原文:


1. Twitterファイル #15
ジェイソン・ブレア事件の再来か?マスコミの新たな大嘘が明らかに
(参考:Wikipedia「ジェイソン・ブレア」)

2. 「クソだとしか言いようがありません。」

3. 「真っ当な右寄りのアカウントにロシアのボットという濡れ衣を着せています。」

4. 「ほぼすべての分析にTwitter上での保守層の会話が組み込まれ、保守層がロシアとつながっているという結果が導き出されることになります。」

5. これらは、Hamilton 68に関するTwitter幹部の言葉だ。Hamilton 68とは、ロシアによる干渉をトラッキングしていると標榜するデジタルダッシュボードであり、トランプ政権の時代に大手メディアが何千とまではいかなくても何百もの記事やテレビニュースで情報源として言及していた。
(参考:「Hamilton 2.0 Dashboard」、「How to Interpret the Hamilton 68 Dashboard: Key Points and Clarifications」)

6. このダッシュボードは、元FBI防諜捜査官(現MSNBC寄稿者)のクリント・ワッツ(Clint Watts)が新自由主義的なシンクタンクである民主主義保護連合(Alliance for Securing Democracy、ASD)の出資を受けて作成した。

7. ASDの諮問委員会には、新保守主義的な著述家であるビル・クリストル(Bill Kristol)、元駐ロシア大使のマイケル・マクフォール(Michael McFaul)、CIA・国家安全保障局(NSA)・国土安全保障省(DHA)の長官や副長官を歴任しヒラリー・クリントンの選挙運動の責任者を務めたジョン・ポデスタ(John Podesta)らが名を連ねている。

8. ニュースメディアは何年にもわたり、シリア空爆に対する非難、Fox Newsの司会者であるローラ・イングラム(Laura Ingraham)に対する支持、ドナルド・トランプとバーニー・サンダース(Bernie Sanders)の両人の選挙運動中の発信などのSNS上の主張をロシアのボットが無限に拡散していると報じてきた。その際に引き合いに出していたのが、クリント・ワッツとHamilton 68だ。

9. Hamilton 68は、ロシアのボットによって「ディープステート」という言葉や、#FireMcMaster、#SchumerShutdown、#WalkAway、#ReleaseTheMemo、#AlabamaSenateRace、#ParklandShootingなどのさまざまなハッシュタグが広められていると主張する記事の情報源となっていた。

10. Hamilton 68の分析方法にはどのような要素が含まれているのかは明らかにされていない。サイトの公開時には、「私たちが分析した結果、600件のTwitterアカウントがロシアによるオンライン工作活動とつながっていることが分かりました」と述べられている。

11. Hamilton 68は、「ロシアが(アカウントを)閉鎖するだけだ」という理由で、そのリストを公表していない。記者やテレビ出演者は、何を意味しているかも知らずに「ロシアのボット」について主張していたのだ。

12. Twitter幹部は、Hamilton 68によるTwitterへのデータリクエストを解析してHamilton 68のリストを再現できる特別な立場にあった。Hamilton 68に基づいたニュース記事が相次いでいることを懸念し、実際にそれを行ったところ、衝撃の事実が明らかになった。

13. Twitter幹部は次のような結論に至った。「これらのアカウントは全くロシアとつながりがなく、決してボットでもありません。」
「このダッシュボードがロシアによる情報工作の実情を正確に表しているという主張を裏付ける証拠はありません。」
「大規模な情報作戦を浮かび上がらせるものとはとても言えません。」

14. 簡単に言うと、Hamilton 68にはロシアとつながりのあるアカウントがほとんど含まれていなかった。実際のところ、リツイートをしている少数のアカウントを除いて、ほとんどが一般のアメリカ人、カナダ人、イギリス人だ。
 
15. これは詐欺だ。Hamilton 68は、「ロシア」がどのようにアメリカ人の考え方に影響を及ぼしているかをトラッキングしていたのではなく、実在するアメリカ人のアカウントばかりを集め、ボットではない人間の会話にロシアの陰謀というレッテルを貼っていたのだ。
 
16. Twitterはすぐに、Hamilton 68を根拠にしたニュース記事には倫理上の大きな問題があり、そのような記事も片棒を担がされている可能性があることに気付いた。信頼・安全部門責任者のヨエル・ロス(Yoel Roth)は、「証拠も裏付けもなく一方的にロシアの犬だというレッテルを貼られていることを、世間に知らせるべきだと思います」と述べている。

17. Twitter幹部の中には、Hamilton 68を追放しようと考えた者もいた。ハッシュタグ#ParklandShootingを喧伝しているとしてロシア人への非難が巻き起こった後、ある幹部は「なぜTwitterが調査を行ったことを発表し、Hamilton 68は間違っていて、無責任で、バイアスがかかっていると言ってはいけないのでしょうか」とメールに記している。

18. ヨエル・ロスは、「現時点では、Hamilton 68が自らリストを公開しなければTwitterが公開すると最後通告をするのがよいと思います」と述べており、Hamilton 68との対決を望んでいた。しかし社内では、政界にコネのあるASDを敵に回すことに対する懸念があった。

19. のちにホワイトハウスと米国国家安全保障会議(NSC)のスポークスマンとなるエミリー・ホーン(Emily Horne)は、「ASDに対して公にどれくらい抵抗するかを慎重に考えなければなりません」と述べている。

20. また、のちに運輸省長官ピート・ブティジェッジ(Pete Buttigieg)の上級顧問となるカルロス・モンジュ(Carlos Monje)は、「私ももっと公にHamilton 68を非難できないことにとても不満を感じていますが、長期的な視点で戦わなければならないと思います」とメールに記している。

21. あるTwitter幹部のいうところの「真っ当な人」が、知らないうちに「ロシアによる干渉」に関するたくさんのニュース記事のネタとして使われていた。そして、Twitterの内部資料にそのリストがあったため、本人たちの知るところとなった。
 
22. 子供の頃にレバノン内戦を経験したソニア・モンソワは、「自由だと思われている世界で、オンラインでの発言がさまざまなレベルで監視されているなんてショックです」と驚いていた。
 
23. シカゴを拠点とする弁護士のデイブ・シェストカスは、「私は合衆国憲法に関する本を書いたことがあります。このようなリストに私が入っているなんて信じられません」と述べている。

24. オレゴン生まれのヤコブ・レビッチは、「小さい頃、父からマッカーシズム時代のブラックリストについて話を聞かされました。子供の私には、人々が大切にしている権利を侵害するための手段が編み出され、そんなことが再び広く行われるようになるなんて思いも寄りませんでした」とコメントした。
(参考:Wikipedia「マッカーシズム」)
 
25. Twitter幹部さえも、誰がそのリストに入っているかを知って驚いた。ポリシー担当取締役のニック・ピクルス(Nick Pickles)は、イギリス人コメディアンの@Holbornlolzについて、このように述べている。「腹が立ちます。私は彼をフォローしていますが、彼はロシア支持者だと言ったことはありません。私が覚えている限りでは、ロシアについてツイートしたことすらありません。」

26. メディア界の大物であり保守的なダニエル・マイケル・リンチ(Dennis Michael Lynch)は、次のようにコメントした。「私が海外のボットとしてリストアップされていたのですか。誇り高い納税者であり、家族を大切にする思いやりのある男であり、アメリカ海兵の誠実な息子である私が、そんな扱いを受けるなんて。いや、誰だろうとそんな目に遭ってよいわけがありません。」

27. Consortium Newsの編集者であるジョー・ローリア(Joe Lauria)も、幅広い意見を標的にしていたこのリストに自身が含まれていたことを知り、次のように怒りをあらわにした。「Hamilton 68のような団体が公式の見解を裏付ける役割を担っているということは、不都合な事実が『誤情報』という名目で闇に葬られているということです。」

28. この話の重要なポイントは、Hamilton 68によるデジタルマッカーシズムがニュースに絶大な影響を与えていたことだ。見出しやテレビ番組のコーナーの量を考えれば、ジェイソン・ブレア(Jayson Blair)やスティーブン・グラス(Stephen Glass)といった個人のほら吹きが及ぼした影響など小さく見えてしまう。
(参考:Wikipedia「スティーブン・グラス」)

29. Hamilton 68は、ブレット・カバノー(Brett Kavanaugh)やデビン・ヌネス(Devin Nunes)の報告書に対する支持、パークランド銃乱射事件、黒人票のコントロール、元FBI長官ロバート・モラー(Robert Mueller)による捜査に対する非難などを取り上げた本当にたくさんのニュース記事で、ロシアによる干渉を主張するための情報源として使用されていた。

30. そのような記事によって大衆の恐怖心が煽られた。さらに、最も陰湿だったのは、サモア系アメリカ人である下院議員のトゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)を外国の「資産」であると中傷したり、批判的な意見に対して親ロシアというレッテルを貼ることによって選挙運動中のバイデン陣営の政治的主張に対する共感を呼んだりするために、記事が利用されたことだ。

31. 驚くべきことに、そして皮肉なことに、Twitterなどのウェブサイトで「フェイクニュース」が拡散されている証拠としてそのような記事が利用されることも多々あった。

32. しかし、それは嘘だった。ジョー・ローリア、ソニア・モンソワ、デイブ・シェストカスといった実在する人々をトラッキングすることによって、ロシアが支援しているという幻想が生み出されていたのだ。SnopesやPolitifactなどのファクトチェックサイトを含め、ほぼすべての大手アメリカメディアがその作り話を根拠に報道を行っていた。

33. Twitterは、公にHamilton 68を追放する勇気はなかったが、オフレコで記者に話そうとした。エミリー・ホーンは次のように述べている。「記者たちはいらいらしています。」「虚空に叫んでいるような手応えです。」

34. ヨエル・ロスは、特定のテーマに関するツイートを国家転覆の目論みであると見なす考えに不快感を示し、次のように述べている。「『このテーマについて話している人はロシアのプロパガンダに騙されているに違いない』と決めつけるのは、あまりに傲慢だと思いませんか。」

35. また、冒頭で紹介したとおり、ほとんどのTwitter幹部と同様に熱烈な民主党支持者であるロスでさえも、Hamilton 68のスキームによって人々が「右寄りのコンテンツはすべてロシアのボットによって広められていると主張するようになる」可能性があると懸念を抱いた。

36. Hamilton 68以外にも、同様の方法を用いていた調査機関が少なくとも2つあり、ニュース記事で情報源として言及されていた。Twitter社内のメールでは、それらの調査機関に対しても批判の声があがった。
 
37. 筆者はMSNBC、クリント・ワッツ、ワシントン・ポスト、Politico、Mother Jones(このメディアはHamilton 68に基づいた記事を14本以上掲載した)、ASD、そしてダイアン・ファインスタイン(Dianne Feinstein)上院議員をはじめとする政治家の事務所にコメントを求めたが、すべて拒否された。ただし、ASDからはHamilton 68の分析方法についてTwitter上で返信があった。

38. ハーバード大学、プリンストン大学、テンプル大学、ニューヨーク大学、ジョージ・ワシントンン大学などの大学がHamilton 68を情報源として宣伝していたため、この問題は学術界のスキャンダルでもある。

39. おそらく最も呆れてしまうのは、選挙で選ばれた公人がこのサイトを宣伝したり、Hamilton 68の「専門家」を招致して証言を求めたりしていたことだ。ダイアン・ファインスタイン上院議員、ジェームズ・ランクフォード(James Lankford)上院議員、リチャード・ブルーメンソール(Richard Blumenthal)上院議員、アダム・シフ(Adam Schiff)下院議員、マーク・ウォーナー(Mark Warner)上院議員らは、そのような不届き者の一人だ。

40. デジタルマッカーシズムと不正行為が組み合わさったことで、米国の政治と文化に大きな傷がついた。Hamilton 68に基づいた記事を撤回しないニュースメディアや、Hamilton 68の分析を利用し続けるニュースメディアは、信用してはならない。そのようなメディアの購読者は皆、この問題について編集者に意見するべきだ。
 
41. 今後も、バリ・ワイス(Bari Weiss、@bariweiss)、リー・ファン(Lee Fang、@lhfang)、マイケル・シェレンバーガー(Michael Shellenberger、@ShellenbergerMD)、The Free Press(@TheFP)がTwitter内部資料のさらなる調査結果を公開する予定だ。Twitterがこの記事について意見することはなかった。ただし、調査は第三者が行ったため、除外された資料があった可能性がある。
 
42. この投稿の内容についてさらに詳しく知りたい方は、racket.newsをご覧いただきたい。
 
また、このスレッドの最初に掲載した動画の作成者である@0rfに感謝し、今後も協力をお願いしたい。


訳者注記:
誤訳や訳漏れがある可能性がありますので、記事の内容を参考にする場合は必ず上記リンクの英語原文に依拠してください。
マガジン「【翻訳】Twitterファイル」にこれまでのTwitterファイルの翻訳をまとめていますので、ぜひご覧ください。

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