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さかな~道ならぬ鯉

その池の主は大いなるしじまのようだった。それは隠れもせず、しかし顕にもせず、さかなを映しやる。

そこへ、さかなの後先を追ってきた赤い綺麗な尾ひれを履いた金魚の地団駄踏み鳴らすと、割れる水の鳴音が三日月の弦を弾くよう静寂をびらん、びらん揺らう。
 
 

すこし窮屈になってきたみたい。そうして苦笑いする彼女は赤い尾ひれを臆せずと脱け出してゆく。

彼女のとなりでは、小さくなってしまったしじまが少し居心地悪くあるようだ。
 
 
 
隠されていたさかなの背のひれが、そのおかしみに揺らうと少し考えたのちに、さかなは身につけていたものを脱いだ。
 
 
 
これで皆おなじだ。紅玉の云う。
さあ、戻ろうか。蒼玉の云う。

そうして彼女と彼女のとなりで小さくあるしじまに向かって、さかならしく笑った。つづく