さかな~道ならぬ鯉
ひとは往々にして顕示と抑制を繰り返す。
さかなの世界もそうであるように。
あれは遠い昔、まだ池に棲むころ。
さかなにも群れがあった。
ひとがひとの道を往くように、さかなはさかなの道を往く。そこに列車はないけれど、そこに舟はないけれど鰭があった。
皆が当たり前に持つものと信じて疑わなかったのは、そこが池であったから。すぐそばにある深遠の森すら知れず。
鵺の鳴いた明ける日に池が消えることも知れず。
些末にして知ることを知らずにあった。
顕示と抑制をはじめて捨てた日。
少女は座席に落ち、月はもう隠されていた。つづく