さかな~道ならぬ鯉
窓の外では橙灯がぽつり、ぽつりと夜を照らしている。
列車の先を蛍がゆく。
手のなか白い箱は静謐にあった。
ことごとくと置いてきたはずだった。
さかなは、空虚しい窓の夜にそんなことを思う。
車内アナウンスからは、
つぎの停車駅が告げられていた。
月夜につき、ここからは暫し徐行運転となります。
乗客の皆様の夜を少々御借りしたく願います。
夜光の列車では夜の帳をおろす客も多い。
皆が各各の帳を持つ。
さかなは隣に置いていた鞄をひらき、
底のほうから随分と草臥れたような布を取り出した。
それを通路側の座席のうえのカーテンレールに掛ければ帳となる。
その帳には、もう古く読むことの叶わない夜があった。
さかなは、ひらいた鞄に白い箱をしまった。つづく