きんぎょ~道ならぬ鯉
あれはまだ、わたしがわたしを知らぬころ。
いくつもの大きな目玉がわたしを照らしていた。
奇妙な格好のひとならず者たちが、わたしを囲む様を海馬だけが思い出せる。
この子は、ずっと悪夢に生きつづけるでしょう。
ひとならず者がそう言うと、誰かのすすり泣く音がした。あれは、誰だったか。
ある日、祖母の家を父が訪ね来た。わたしは蚊帳から出ぬまま、帳をひろげ真ん中に包まり、それはどさ回りの手荷物のよう縮こまる。
そのすぐあとには母が訪ね来て、蚊帳を捲ろうと手をかけたが、革靴の声が聞こえてやはりわたしは手荷物になった。
どれくらいか過ぎ、夕暮れの障子に祖母の影が映ると、わたしは漸くと蚊帳を這い出て、何事もなかったよう振る舞う祖母と夕餉を囲む。
そんな日は決まってわたしの好きなものだけが並べられ、そんな日は決まって、祖母と眠った。
夢はつづくと、わたしが知らなかったころ。つづく