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きんぎょ~道ならぬ鯉

あの日は、赤い靴とおんなじ金魚を買ってもらって嬉しかったことを思い出せる。ちいさな金魚鉢にちいさな金魚と一緒に列車に乗り込んだけれど、列車のなかを右往左往するうち金魚鉢にすこし疲れて、いつの間にと何処かへ置き忘れていた。
 
 
そんなことも忘れてしまって、けれど彼に出逢って思い出したの。嗚呼、あれは金魚じゃなく鯉だったんだって。

夜はこわくて、けれど彼のおはなしはわたしを放流することなく。
 
 
 
酸い夢も甘い夢も、わたしに教えてくれた。

母なく、父なく、金魚すらなく、
あったのは赤い靴と草臥れた靴と、それから。
それからわたしは、何になるかを列車の数より、夜より長考したの。何れくらいか、瞬きする間に眠る間に、大人になる間に。

伏線は幾らでもあった。
気づかぬうちに解けてしまったことも、だれにもあるでしょう。
 
 
鵺の鳴くとは限らない。つづく