さかな~道ならぬ鯉
赤い月の夜には鵺が鳴くってお母さんに聞いたことがある。
今夜は赤い月だから、きっと鵺が鳴いているのね。
でも、鵺ってどんな姿をしているのか知らないの。
あなたは知ってる?
少女は窓に映るさかなに向かって訊ねた。
さかなは目を閉じていた。
蒼玉と紅玉は窓の向こうに夜を見つめている。
鵺の聲を聞いたことはあるかい。
そう話したのは蒼玉だった。
わたしは遠い昔に一度だけ耳にしたことがある。
蓊欝と幽寂の蔽う山のなか、それは嬉しく哀しむように鳴いていた。
少女は唇をきゅっと一文字にした。
怖いかい。
さかなが目を開け少女に向くと、少女は小さく首を横に振った。
鵺は寂しいのかしら、嬉しいのかしら。
でも、恥ずかしがりなのは確かね。だって
姿をみせないんだもの。お母さんもみたことないんだと思う。いつか、みてみたいな。
そういって少女は窓に映る月にそっと指をのせた。つづく