さかな~道ならぬ鯉
蓮池の鯉も食わぬ泥がある。
蓮の葉を渡る少女の足元では、赤い靴に露をのせ小歩くたび跳ねる滴を鯉が食う。
十六夜の鯉ゆらぐ、絶え絶えに金色、銀色のゆらぐ終焉。
幾らかの救えるものたちを少女は連れた。
まだ見ぬ池を
まだ知らぬ池を
ととん、ととん
列車が夢を通過してゆく。
いつの間にと眠っていたさかなが目を覚ますと、先に目を覚ましたのか少女は窓の向こうにいた。
夢をみていたのでしょう。
目を覚ましたさかなに気づいたのか、そういって少女は窓に微笑んだ。
ひとは、夢を食いつづけなければ生きてゆけない。
お祖母ちゃんが言っていたの。
でも、夢を食うってどういうことなのかよくわからない。夢は見るものでしょう?
ケーキの夢をみていたの。
白いクリームのたっぷりとのった苺のケーキ。
でも食べる前に夢から覚めてしまったの、やっぱり夢は食べられなかったわ。
少女は悄然として小さく溜め息をつく。
さかなは夢を胸のうちに留めた。つづく