さかな~道ならぬ鯉
夜光のレールは月へと伸びる。
つきのなか、つきのなか。
車内アナウンスが停車駅を告げると一瞬、窓の外が真っ赤に染まり、そのあとを直ぐ様と真っ黒な世界が飲み込んでいった。
そこには残像すらも無い。正確には、車内灯の薄ぼんやりとした橙すらも外に漏れずにいた。それはまるで、光をも吸い込んでしまうような漆黒。
列車が停車すると扉の開く音がした。しかし、それ以外の音は無い。乗客の乗降する気配すら無かった。
さかなは帳を上げ、座席から車内を窺うと、立ち上がり座席の前方にあるひとつの扉へと歩きだす。
そのあとを不安げな少女の面様が追った。
持っていた鞄の中からさかなは先刻の白い箱を取り出すと、それを扉の外へ投げてみせる。すると
放られた箱の蓋が開き、中からはきらきらと瞬くよう水が溢れだした。水の次には、とりどりに色彩放つ睡蓮が、睡蓮の次には黄金煌めく魚の群れが次々漆黒へ泳ぎだすと、
それら燦たる光景が少女の目を一層と輝かせた。
これは魔法ですか。
少女が尋ねると、さかは首を横に振り、
記憶ですよ、と答える。
漆黒に泳ぐ黄金の魚たち、そこに何処からか黄色い象が現れた。黄色い象の後からは、虹色の自転車がやってきた。気づけば、列車の車窓からは次々と白い箱が投げられている。
それは漆黒のスクリーンに繰り広げられる記憶のものかたり。軈て扉が閉まると、記憶はどんどんと列車の後方へ流れだす。
次の通過駅は流星群、流星群。
車内アナウンスが響いた。つづく