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さかな~道ならぬ鯉

夜に舟を漕ぐ。
そこかしこに銀色、金色の船が泳いでいた。
能くとみれば、船には尾鰭が生えている。それが

ゆらゆらと水面たゆたう金色、銀色の
いつか暮らした池を彷彿とさせる。

さかなはうつら、うつらと舟を漕いでいた。
帳は下りたままだった。
 
 
 
もう幾駅を通過したのだろう。
窓の外は変わらぬままにあった。そのとき、ふいと帳の揺れるのが窓に映る。すると、

こんばんは。

揺れる帳の向こうから囁くような声がした。
さかなが帳の裾を少し捲ると、そこには小さな赤い靴が覗いた。更に帳を上げてやるとそれは、年端もいかぬ少女のものだった。

少女は申し訳なさそうにさかなにお辞儀をする。
どうしましたお嬢さん、何かお困りですか。

さかなは、少女を席に招き入れる仕草をした。
少女は少し考えたのち、さかなの斜め前の座席に腰掛けた。

少女の話では、今夜はじめてこの列車に乗り、ここから18ほど先の駅で降りること。そこに少女の祖母が待っていてくれること。列車に乗ったら殆どの座席に布が掛かっていて、どこに座ればいいのかわからず暫く車内を行ったり来たりしていたということだった。

そして少女は最後に、
この座席にはとても綺麗な布が掛かっていたから、きっと綺麗な心の持ち主に違いないと思ったの。

そんなことを言っていた。そうして、
紅玉に映された赤い靴の照る夜に

少女とさかなは、つかの間であろうときを過ごすこととなった。つづく