1998年、伊豆旅行

ⅯMさんと私が台所に入る前に女性の先輩が炊飯の準備を始めていた。MⅯさんが先輩に2,3言話しかけると彼女は台所を出て行った。ⅯMさんと私は一緒に仕度を始めた。

 彼が味噌汁の具の大根をいちょう切りにした。「今考えながら切りましたか。」「別に。」「私もいちょう切りがいいな、と思っていました。」

 彼が好き、彼をもっと知りたくなった。台所の立ち姿も、包丁さばきも仕草も好きになった。

 直接好きと言えなかったのには理由があった。今の関係を壊すのが怖かったし、自信もなかった。この関係をずっと続けていくほうがずっと心地よいと思った。

 朝食のあと、みんなでフライト場に向った。天候が悪くて飛べなかったので、みんなでサッカーをした。Aちゃんは一人でもくもくと立ち上げ練習をしていた。MⅯさんは高い山の上で風の流れを見ていた。Kさんはうつぶせになって眠っていた。

 サッカーを楽しんでいた私は、急に視線を感じて立ち止まった。
そこには下を向いてつまらなそうに立っているMⅯさんがいた。

 みんながサッカーに飽きてきたので、全員で記念撮影をして帰路に着いた。

 途中温泉に寄ったりして帰りが遅くなった。突然Aちゃんが他のメンバーの車に乗ってⅯさんの車に戻らなかった。みんな無線を積んでいたのでⅯMさんはみんなに呼びかけてAちゃんを探した。Aちゃんが戻ってきた時は「勝手に行っちゃだめじゃないか。」とたしなめた。

 Ⅿさんの独身寮に着くとS夫妻とAちゃんはS夫妻の車に乗った。ⅯMさんは疲れているのに、私にちょっと待っててと言い残すとあわてて荷物を持ち自分の部屋に向い、いちもくさんに戻ってきた。送っていくよ、と。Rさんが「どうやって駅に行くんだっけ。」と言い、Sさんは「俺が知らないわけ無いだろう。」と言った。荷物を自分のひざに乗せて「大丈夫乗れますよ。」と言ったのはAちゃんだった。後ろ髪ひかれる 思いでMさんに「Sさんが乗せてくださるので。」と言った。
彼は「分かった。」とうなずき別れた。

 それから5月まで私達は会わなかった。MⅯさんの友人Eさんに
須坂へ誘われたのは4月下旬、須坂に着くとMⅯさんがいた。須坂にはサークルのバスがあった。バスをねぐらにしていた。

 そのバスにKさんが眠っていた。夜勤明けで来たらしい。

 Mさんはバスを生活しやすく改造していた。私にフロントガラスにシートを貼り付けるように頼んできた。出来は散々だった。セロファンの貼り方を知らなかった。
格闘した挙句ぐちゃぐちゃになった。Ⅿさんは「幼稚園の先生なら簡単にできると思った。」と失望していた。

 テント場には水道が無く車で10分程度の公園の水道からポリタンクに水を入れて飲料水や生活用水にしていた。

 
 私もたらいに水を張り、洗剤を入れてその中に汚れた食器を入れて洗おうとした。

 「おいおい!」声を荒げてMⅯさんが近づいてきた。「そんなに洗剤入れたら環境に悪いじゃないか。」彼はプンプン怒っていた。
私には私の考えがあったことを無視して。S夫妻に「あらあら夫婦喧嘩がはじまったよ。」とはやしたてられた。

 太陽の光が強かったので、MⅯさんはサングラスをしていた。バスの入り口ですれ違っても眼鏡の奥の瞳が吊り上がってるのを感じた。そんな態度に私も腹が立った。

 午後になり近くの温泉にみんなで行った。MⅯさんの運転する車の助手席に乗ったのだけど、空気はすこぶる重かった。

 温泉の帰り、ⅯさんはKさんを助手席に誘った。「スイスの計画話したいから。」私は後部座席に座った。

 ⅯMさんとKさんの声は、私にはほとんど聞えてこなかった。私はそろそろ仲直りがしたいと思いながら機会をうかがっていた。

 ⅯMさんがKさんに飴を差し出し「これむいてくれる?」と言った。KさんはセロファンをむいてMさんに渡したがMⅯさんは「セロファンがくっついていて食べられないや。」と言った。

 飴は車に置いてあったので溶けていた。私は身を乗り出し「そんなのなめれば取れますよ。」と言った。「じゃあ食べてみてよ。」
Ⅿさんがこちらを向いた。

 それをきっかけに3人で話し始めた。「スイス旅行ですか。」
「そう。きんぎょちゃんも行く?」Kさんが言った。MⅯさんは
黙っていたが、私の参加に同意しているらしかった。

 スイス旅行はサークル内で以前から計画していて、MⅯさんも
Kさんも単独で下見に行ったり、今は計画の最終段階でメンバーがほぼ決まっていることなどを初めて知った。

 すぐに参加表明した。

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